更新:この記事内容を「ゲームデザインの理論」に統合しました。今後の更新はそちらで行います。
---
少し前から、DSの『セブンスドラゴン』のレビューを読んで、分析している。不満の一つに次のようなものがあった。
モンスター図鑑的な物が存在しないため、敵が落とす素材を集めるクエストで、どの敵が落とすのか把握していないといけない。
これを題材に、この記事では以下を主張する。
ゲーム上のある決定は他の決定を要求する構造になっていくのかもしれない。
ここで「ある決定」とは「敵が落とす素材を集めるクエストが存在する」に対応し、「他の決定」とは「モンスター図鑑的な物が存在する」に対応する。「ある決定」が「他の決定」を要求するかどうかは、プレイヤーが不満を抱えるかどうかで決まる。ここでの「不満」は「どの敵が落とすのか把握していないといけない」に対応する。
・ある決定: 敵が落とす素材を集めるクエストが存在する
・他の決定: モンスター図鑑的な物が存在する
・不満: どの敵が落とすのか把握していないといけない
ゲームデザインのプロセス(活動)とは、ここでは、次のような側面に対する様々な決定を行うことだする。
(1)ゲームのルールの側面: キャラクターのレベルは上がる。レベル制限は99。戦闘はターン制であり、敵と見方が交互に行動を行う、など。
(1.1)ゲームバランスの側面: ある敵のHPは500といった、パラメータの設定など。
(2)ゲームシステムの側面: セーブ数は、10件など。
(2.1)ユーザインタフェースの側面: LボタンとRボタンでキャラクターの切り替えができるなど。
(2.2) システムの品質に関わる非機能要素の側面: たとえば、ロード時間に対する要求。3秒以内に戦闘画面を表示し、ユーザの入力を受け付けなければならない、など。
(3)ゲームの遊び方に関する側面: ゲーム中のBGMを自由に変更できるなど。
ゲームデザインとは、このプロセスの結果として決めたことの集合であるとする。
ゲームデザインとは、決めたことの集合であるとした。決めたことは、独立しているのではなく、他の決めたことと関係を持つ。具体的には、ある決定を行なうためにはどんな決定がされていなければならないか、という関係である。たとえば「レベル制限は99」という決定は「キャラクターのレベルは上がる」という決定、次いで「レベル制限がある」というがまずなされていなければならない。
ここでは、ゲームデザインの構造を、決めたこと(構造要素)とその間の関係とする。
冒頭で紹介した不満の表現例をもとに議論する。
モンスター図鑑的な物が存在しないため、敵が落とす素材を集めるクエストで、どの敵が落とすのか把握していないといけない。
これは、以下要素に分解できる。
・モンスター図鑑的な物が存在しない
・敵が落とす素材を集めるクエストがある
・どの敵が落とすのか把握していないといけない
ゲームデザインの観点からは、最初の二つは、『セブンスドラゴン』のゲームデザインの一部としての「決めたこと(決められたこと)」に対応する。三つめは、ゲームデザインとして「決められた」に対するプレイヤーの評価である。
・決めたこと1: モンスター図鑑的な物が存在しない
・決めたこと2: 敵が落とす素材を集めるクエストがある
・決めたことに対する評価: どの敵が落とすのか把握していないといけない
さらには、この場合、決めたことへの評価は「不満」の一種である。
以下を考察できる。
(考察1)「決めたこと1」と「決めたこと2」の間には、決定順序の依存関係が要求されない: 「モンスター図鑑的な物が存在しない」という決定をするためには、「敵が落とす素材を集めるクエストがある」という決定を先に行なわれていなくてもよい。逆も同様であり、「敵が落とす素材を集めるクエストがある」という決定をするためには、「モンスター図鑑的な物が存在しない」とう決定を先に行なわれていなくてもよい。これは、「ゲームデザインの構造とは何か?」の節で例にしたような、「レベル制限は99」という決定は「キャラクターのレベルは上がる」という決定が先になされていなければならない、という関係とは異なる。
(考察2) 決めたことに対する評価に伴う決めたことの関係付け: 考察1では、「決めたこと1」と「決めたこと2」の間には、決定順序の関係がないとした。しかし、決めたことに対するプレイヤーの評価は、これら「決めたこと1」と「決めたこと2」の間を関係付ける。ここではそのような関係を「不満関係」とする。
これらの考察と、さらに以下の前提があるとする。
(前提)ゲームデザインは、プレイヤーをなるべく満足させなければならない。
ここで「なるべく」としたのは、プレイヤー間で好みの衝突があるためである。
これを前提とすると、さきほどの不満の解消する一つの方法は、「モンスター図鑑的な物が存在しない」という決定ではなく、「モンスター図鑑的な物が存在する」という決定を行なうことである。ここではそのような関係を「満足関係」とする。
以上のことから次を結論とする。
(結論1)ある決めたことに対して、0以上の不満関係がありうる: 「敵が落とす素材を集めるクエストがある」という決定には、「モンスター図鑑的な物が存在しない」という決定との不満足関係がある。
(結論2)ある決めたことに対して、0以上の満足関係がありうる: 「敵が落とす素材を集めるクエストがある」という決定には、「モンスター図鑑的な物が存在する」という決定との満足関係がある。ただし、「モンスター図鑑 的な物が存在する」という決定以外との満足関係も考えられる。たとえば、「敵が落とす素材を集めるクエストを受けている場合には、マップ上にその素材を落 す敵の情報が直接表示される」といった決定である。
(結論3)ゲームデザインは、個々の決定だけでなく、決定の構造を選択するプロセスである: 結論2より、ゲームデザインのプロセスにおいては、一つ一つの決定を行なっていくのではなく、一つの決定が他の決定を満足関係の観点から要求するような、決定の構造を選択するプロセスだと特徴付けられる。
これらの結論から、ゲームデザインの実践について何が言えるか?
・ゲームデザインにおいて、不満・満足関係を備える部分的構造を特定することは、有益である。そのような構造は、可能なゲームデザインに対する構造上の制約・指針として利用できる。
・制約として利用することで、プレイヤーを満足させられないような誤ったゲームデザインを生み出すことを避けられる。
・指針として利用することで、状況に適するように、プレイヤーを満足させられるゲームデザインを生み出せる。
---
少し前から、DSの『セブンスドラゴン』のレビューを読んで、分析している。不満の一つに次のようなものがあった。
モンスター図鑑的な物が存在しないため、敵が落とす素材を集めるクエストで、どの敵が落とすのか把握していないといけない。
これを題材に、この記事では以下を主張する。
ゲーム上のある決定は他の決定を要求する構造になっていくのかもしれない。
ここで「ある決定」とは「敵が落とす素材を集めるクエストが存在する」に対応し、「他の決定」とは「モンスター図鑑的な物が存在する」に対応する。「ある決定」が「他の決定」を要求するかどうかは、プレイヤーが不満を抱えるかどうかで決まる。ここでの「不満」は「どの敵が落とすのか把握していないといけない」に対応する。
・ある決定: 敵が落とす素材を集めるクエストが存在する
・他の決定: モンスター図鑑的な物が存在する
・不満: どの敵が落とすのか把握していないといけない
ゲームデザインとは何か?
ゲームデザインのプロセス(活動)とは、ここでは、次のような側面に対する様々な決定を行うことだする。
(1)ゲームのルールの側面: キャラクターのレベルは上がる。レベル制限は99。戦闘はターン制であり、敵と見方が交互に行動を行う、など。
(1.1)ゲームバランスの側面: ある敵のHPは500といった、パラメータの設定など。
(2)ゲームシステムの側面: セーブ数は、10件など。
(2.1)ユーザインタフェースの側面: LボタンとRボタンでキャラクターの切り替えができるなど。
(2.2) システムの品質に関わる非機能要素の側面: たとえば、ロード時間に対する要求。3秒以内に戦闘画面を表示し、ユーザの入力を受け付けなければならない、など。
(3)ゲームの遊び方に関する側面: ゲーム中のBGMを自由に変更できるなど。
ゲームデザインとは、このプロセスの結果として決めたことの集合であるとする。
ゲームデザインの構造とは何か?
ゲームデザインとは、決めたことの集合であるとした。決めたことは、独立しているのではなく、他の決めたことと関係を持つ。具体的には、ある決定を行なうためにはどんな決定がされていなければならないか、という関係である。たとえば「レベル制限は99」という決定は「キャラクターのレベルは上がる」という決定、次いで「レベル制限がある」というがまずなされていなければならない。
ここでは、ゲームデザインの構造を、決めたこと(構造要素)とその間の関係とする。
ゲームデザインの構造に対する制約
冒頭で紹介した不満の表現例をもとに議論する。
モンスター図鑑的な物が存在しないため、敵が落とす素材を集めるクエストで、どの敵が落とすのか把握していないといけない。
これは、以下要素に分解できる。
・モンスター図鑑的な物が存在しない
・敵が落とす素材を集めるクエストがある
・どの敵が落とすのか把握していないといけない
ゲームデザインの観点からは、最初の二つは、『セブンスドラゴン』のゲームデザインの一部としての「決めたこと(決められたこと)」に対応する。三つめは、ゲームデザインとして「決められた」に対するプレイヤーの評価である。
・決めたこと1: モンスター図鑑的な物が存在しない
・決めたこと2: 敵が落とす素材を集めるクエストがある
・決めたことに対する評価: どの敵が落とすのか把握していないといけない
さらには、この場合、決めたことへの評価は「不満」の一種である。
以下を考察できる。
(考察1)「決めたこと1」と「決めたこと2」の間には、決定順序の依存関係が要求されない: 「モンスター図鑑的な物が存在しない」という決定をするためには、「敵が落とす素材を集めるクエストがある」という決定を先に行なわれていなくてもよい。逆も同様であり、「敵が落とす素材を集めるクエストがある」という決定をするためには、「モンスター図鑑的な物が存在しない」とう決定を先に行なわれていなくてもよい。これは、「ゲームデザインの構造とは何か?」の節で例にしたような、「レベル制限は99」という決定は「キャラクターのレベルは上がる」という決定が先になされていなければならない、という関係とは異なる。
(考察2) 決めたことに対する評価に伴う決めたことの関係付け: 考察1では、「決めたこと1」と「決めたこと2」の間には、決定順序の関係がないとした。しかし、決めたことに対するプレイヤーの評価は、これら「決めたこと1」と「決めたこと2」の間を関係付ける。ここではそのような関係を「不満関係」とする。
これらの考察と、さらに以下の前提があるとする。
(前提)ゲームデザインは、プレイヤーをなるべく満足させなければならない。
ここで「なるべく」としたのは、プレイヤー間で好みの衝突があるためである。
これを前提とすると、さきほどの不満の解消する一つの方法は、「モンスター図鑑的な物が存在しない」という決定ではなく、「モンスター図鑑的な物が存在する」という決定を行なうことである。ここではそのような関係を「満足関係」とする。
以上のことから次を結論とする。
(結論1)ある決めたことに対して、0以上の不満関係がありうる: 「敵が落とす素材を集めるクエストがある」という決定には、「モンスター図鑑的な物が存在しない」という決定との不満足関係がある。
(結論2)ある決めたことに対して、0以上の満足関係がありうる: 「敵が落とす素材を集めるクエストがある」という決定には、「モンスター図鑑的な物が存在する」という決定との満足関係がある。ただし、「モンスター図鑑 的な物が存在する」という決定以外との満足関係も考えられる。たとえば、「敵が落とす素材を集めるクエストを受けている場合には、マップ上にその素材を落 す敵の情報が直接表示される」といった決定である。
(結論3)ゲームデザインは、個々の決定だけでなく、決定の構造を選択するプロセスである: 結論2より、ゲームデザインのプロセスにおいては、一つ一つの決定を行なっていくのではなく、一つの決定が他の決定を満足関係の観点から要求するような、決定の構造を選択するプロセスだと特徴付けられる。
これらの結論から、ゲームデザインの実践について何が言えるか?
・ゲームデザインにおいて、不満・満足関係を備える部分的構造を特定することは、有益である。そのような構造は、可能なゲームデザインに対する構造上の制約・指針として利用できる。
・制約として利用することで、プレイヤーを満足させられないような誤ったゲームデザインを生み出すことを避けられる。
・指針として利用することで、状況に適するように、プレイヤーを満足させられるゲームデザインを生み出せる。
PR
トラックバック
トラックバックURL: