更新履歴
2009/8/8: この記事の内容を大幅に修正して「ゲームデザインの理論」のドキュメントに「ゲームプレイヤーの尊重性」として追加しました。今後は、こちらのドキュメントを更新していきます。
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この記事では、以下を主張する。
ゲームプレイヤーは、ゲームデザインに対して完全に利己的に不満の解消を要求するわけではない。
ゲームプレイヤーはゲームプレイを通じて、自分に適さない点があるとき、不満を持つ。しかし、ある種のプレイヤーは、自分だけに適するような不満の解消をゲームデザインに対して要求するのではなく、他のプレイヤーの好みを考慮するような解消を受け入れる。
ゲームデザインのプロセス(活動)とは、ここでは、次のような側面に対する様々な決定(デシジョン)を行うことだする。
(1)ゲームのルールの側面: キャラクターのレベルは上がる。レベル制限は99。戦闘はターン制であり、敵と見方が交互に行動を行う、など。
(1.1)ゲームバランスの側面: ある敵のHPは500といった、パラメータの設定など。
(2)ゲームシステムの側面: セーブ数は、10件など。
(2.1)ユーザインタフェースの側面: LボタンとRボタンでキャラクターの切り替えができるなど。
(2.2) システムの品質に関わる非機能要素の側面: たとえば、ロード時間に対する要求。3秒以内に戦闘画面を表示し、ユーザの入力を受け付けなければならない、など。
(3)ゲームの遊び方に関する側面: ゲーム中のBGMを自由に変更できるなど。
ゲームデザインとは、このプロセスの結果として決めたこと(デシジョン)の集合であるとする。
詳細は「ゲームデザインの理論」のドキュメントを参照。
ndsmk2さんのところの『ドラクエ9』のレビューを分析していると、次のような不満があった。
メッセージスピードを変更できない
この不満は、136件のレビュー中8件あった。ここで興味深いのは、なぜ、
「メッセージスピードが遅い」あるいは「メッセージスピードが速い」というような、プレイヤー自身に適した不満の表現でないのか
ということである。実際、「メッセージスピードが遅い」という不満は2件あった。
この疑問に対して、以下の3つの解釈を考えた。
・(解釈1) 過去の体験からの予測: 今までのドラクエのシリーズ(全てかどうかは未検証)では、メッセージスピードを変更する機能は存在していた。しかし、今作では、存在していない。そのため、過去の体験のあるプレイヤーは「メッセージのスピードの度合いが自分に適していない」というレベルの不満はなく、「メッセージのスピードが適していなくてスピードを変更したいのに、その機能がなくなっている」というレベルでの不満の表現を行った。
・(解釈2) 実際はプレイヤー自身に適した不満の表現である: 実際に、メッセージスピードの変更が必要な理由がプレイヤーにあったのかもしれない。たとえば、メッセースピードは最初はプレイヤーに適していた。しかし、プレイヤーが慣れるにつれて、メッセージスピードがプレイヤーに適さなくなった。そのため、スピードの変更の必要性があった。
この記事で主張したいのは、3つ目の解釈である。
・(解釈3) プレイヤーは、完全に利己的に自身の不満の解消を要求するわけではない: 自分に適したメッセージスピードは他のプレイヤーには適していないかもしれない。しかし、メッセージスピードをプレイヤー毎にに適するように変更できれば、自分だけなく他のプレイヤーの不満も解消できる。
もちろん、レビューを書いたプレイヤーは、3つ目のようなことを思考して不満を表現したわけではないかもしれない。実際、著者自身もこの「メッセージスピードを変更できない」という不満を持ったが、3のような思考を行ったわけはなかった。著者自身は、どちらかというと1だったように思える。
しかしながら、3の解釈も適切である、というのは重要であるように思える。少なくとも、筆者自身は3の解釈に反論はなかった。
一般化して、考えてみよう。ここでは、「完全に利己的なプレイヤー」と、「利己的ではないプレイヤー」の二種類が存在するとする。
・完全に利己的なプレイヤー: 自分の好みに適した不満の表現を行うプレイヤー
・利己的ではないプレイヤー: 自分の好みだけでなく他人の好みにも適した不満の表現の解消を行うプレイヤー
まずは、以下の図に示すように、完全に利己的なプレイヤーAと完全に利己的なプレイヤーBがいる場合。また、デシジョン1で構成されるゲームデザイン1とデシジョン2で構成されるゲームデザイン2があり、AとBがこれらゲームデザインのゲームをプレイしたとする。
この図から分かるように、完全に利己的なプレイヤーが表現する不満のみを解消しようとした場合、プレイヤー間で好みの衝突があるため、どちらのプレイヤーも満足させることができない。
次に、プレイヤーAとBに加えて、利己的でないプレイヤーXがいるとする。このプレイヤーXは、ゲームデザイン1のゲームをプレイし、「メッセージスピードが遅いのに変更できない」という不満の表現を行うとする(ゲームデザイン2の場合でも同様の議論が可能)。
ここで、二つの不満の表現が出たため、ゲームデザイナーは、どちらかを選択することで、不満の解消を行うことができる。
・(選択肢1)完全に利己的なプレイヤーの不満を解消: これにより、プレイヤーAの不満が解消され、プレイヤーBは不満になり、プレイヤーXは、解釈2の理由で不満があったのでない限り、とりあえずは満足する。
・(選択肢2)利己的でないプレイヤーの不満を解消: プレイヤーA、B、Xの全てのプレイヤーの不満を解消することができる。
選択肢2の場合を以下の図に示している。ただし、「メッセージスピードは、プレイヤーA、B、Xに適する範囲で変更が可能」と仮定している。
ここで、プレイヤーの利己性の度合いは関係しないのではないか、と思われる方がいるかもしれない。つまり、あるデシジョン(例ではデシジョン1かデシジョン2)は、プレイヤー間で好みの衝突を引き起こすということから、衝突を解消するようなデシジョン(例ではデシジョン3)を行うだけではないのか、ということである。
プレイヤーの利己性を考慮するかどうかは、衝突を解消するようなデシジョンを行ってよいかどうかに関係する。つまり、
・衝突を解消するようなデシジョンを受け入れるプレイヤー
・衝突を解消するようなデシジョンを受け入れないプレイヤー
がいると考えられるためである。
衝突を解消するようなデシジョンは、プレイヤーに選択することを強いるということである。プレイヤー自身に、自身に適したデザインを選択する権利を与えるということである。問題は、プレイヤーによっては選択する行為自体に不満を持つかもしれない、ということである。
ここでは、「利己的でないプレイヤー」 という観点から、「衝突を解消するようなデシジョンを受け入れるプレイヤーがいる」ということを示したといえる。
この記事では、以下の主張を行った。
ゲームプレイヤーは、ゲームデザインに対して完全に利己的に不満の解消を要求するわけではない。
このことは、
プレイヤー間の好みの衝突を解消するようなデシジョンを受け入れるプレイヤーがいる
とも言える。
2009/8/8: この記事の内容を大幅に修正して「ゲームデザインの理論」のドキュメントに「ゲームプレイヤーの尊重性」として追加しました。今後は、こちらのドキュメントを更新していきます。
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この記事では、以下を主張する。
ゲームプレイヤーは、ゲームデザインに対して完全に利己的に不満の解消を要求するわけではない。
ゲームプレイヤーはゲームプレイを通じて、自分に適さない点があるとき、不満を持つ。しかし、ある種のプレイヤーは、自分だけに適するような不満の解消をゲームデザインに対して要求するのではなく、他のプレイヤーの好みを考慮するような解消を受け入れる。
ゲームデザインとは何か?
ゲームデザインのプロセス(活動)とは、ここでは、次のような側面に対する様々な決定(デシジョン)を行うことだする。
(1)ゲームのルールの側面: キャラクターのレベルは上がる。レベル制限は99。戦闘はターン制であり、敵と見方が交互に行動を行う、など。
(1.1)ゲームバランスの側面: ある敵のHPは500といった、パラメータの設定など。
(2)ゲームシステムの側面: セーブ数は、10件など。
(2.1)ユーザインタフェースの側面: LボタンとRボタンでキャラクターの切り替えができるなど。
(2.2) システムの品質に関わる非機能要素の側面: たとえば、ロード時間に対する要求。3秒以内に戦闘画面を表示し、ユーザの入力を受け付けなければならない、など。
(3)ゲームの遊び方に関する側面: ゲーム中のBGMを自由に変更できるなど。
ゲームデザインとは、このプロセスの結果として決めたこと(デシジョン)の集合であるとする。
詳細は「ゲームデザインの理論」のドキュメントを参照。
ゲームプレイヤーの利己性
ndsmk2さんのところの『ドラクエ9』のレビューを分析していると、次のような不満があった。
メッセージスピードを変更できない
この不満は、136件のレビュー中8件あった。ここで興味深いのは、なぜ、
「メッセージスピードが遅い」あるいは「メッセージスピードが速い」というような、プレイヤー自身に適した不満の表現でないのか
ということである。実際、「メッセージスピードが遅い」という不満は2件あった。
この疑問に対して、以下の3つの解釈を考えた。
・(解釈1) 過去の体験からの予測: 今までのドラクエのシリーズ(全てかどうかは未検証)では、メッセージスピードを変更する機能は存在していた。しかし、今作では、存在していない。そのため、過去の体験のあるプレイヤーは「メッセージのスピードの度合いが自分に適していない」というレベルの不満はなく、「メッセージのスピードが適していなくてスピードを変更したいのに、その機能がなくなっている」というレベルでの不満の表現を行った。
・(解釈2) 実際はプレイヤー自身に適した不満の表現である: 実際に、メッセージスピードの変更が必要な理由がプレイヤーにあったのかもしれない。たとえば、メッセースピードは最初はプレイヤーに適していた。しかし、プレイヤーが慣れるにつれて、メッセージスピードがプレイヤーに適さなくなった。そのため、スピードの変更の必要性があった。
この記事で主張したいのは、3つ目の解釈である。
・(解釈3) プレイヤーは、完全に利己的に自身の不満の解消を要求するわけではない: 自分に適したメッセージスピードは他のプレイヤーには適していないかもしれない。しかし、メッセージスピードをプレイヤー毎にに適するように変更できれば、自分だけなく他のプレイヤーの不満も解消できる。
もちろん、レビューを書いたプレイヤーは、3つ目のようなことを思考して不満を表現したわけではないかもしれない。実際、著者自身もこの「メッセージスピードを変更できない」という不満を持ったが、3のような思考を行ったわけはなかった。著者自身は、どちらかというと1だったように思える。
しかしながら、3の解釈も適切である、というのは重要であるように思える。少なくとも、筆者自身は3の解釈に反論はなかった。
ゲームデザインへのゲームプレイヤーの利己性の影響
一般化して、考えてみよう。ここでは、「完全に利己的なプレイヤー」と、「利己的ではないプレイヤー」の二種類が存在するとする。
・完全に利己的なプレイヤー: 自分の好みに適した不満の表現を行うプレイヤー
・利己的ではないプレイヤー: 自分の好みだけでなく他人の好みにも適した不満の表現の解消を行うプレイヤー
まずは、以下の図に示すように、完全に利己的なプレイヤーAと完全に利己的なプレイヤーBがいる場合。また、デシジョン1で構成されるゲームデザイン1とデシジョン2で構成されるゲームデザイン2があり、AとBがこれらゲームデザインのゲームをプレイしたとする。
この図から分かるように、完全に利己的なプレイヤーが表現する不満のみを解消しようとした場合、プレイヤー間で好みの衝突があるため、どちらのプレイヤーも満足させることができない。
次に、プレイヤーAとBに加えて、利己的でないプレイヤーXがいるとする。このプレイヤーXは、ゲームデザイン1のゲームをプレイし、「メッセージスピードが遅いのに変更できない」という不満の表現を行うとする(ゲームデザイン2の場合でも同様の議論が可能)。
ここで、二つの不満の表現が出たため、ゲームデザイナーは、どちらかを選択することで、不満の解消を行うことができる。
・(選択肢1)完全に利己的なプレイヤーの不満を解消: これにより、プレイヤーAの不満が解消され、プレイヤーBは不満になり、プレイヤーXは、解釈2の理由で不満があったのでない限り、とりあえずは満足する。
・(選択肢2)利己的でないプレイヤーの不満を解消: プレイヤーA、B、Xの全てのプレイヤーの不満を解消することができる。
選択肢2の場合を以下の図に示している。ただし、「メッセージスピードは、プレイヤーA、B、Xに適する範囲で変更が可能」と仮定している。
ここで、プレイヤーの利己性の度合いは関係しないのではないか、と思われる方がいるかもしれない。つまり、あるデシジョン(例ではデシジョン1かデシジョン2)は、プレイヤー間で好みの衝突を引き起こすということから、衝突を解消するようなデシジョン(例ではデシジョン3)を行うだけではないのか、ということである。
プレイヤーの利己性を考慮するかどうかは、衝突を解消するようなデシジョンを行ってよいかどうかに関係する。つまり、
・衝突を解消するようなデシジョンを受け入れるプレイヤー
・衝突を解消するようなデシジョンを受け入れないプレイヤー
がいると考えられるためである。
衝突を解消するようなデシジョンは、プレイヤーに選択することを強いるということである。プレイヤー自身に、自身に適したデザインを選択する権利を与えるということである。問題は、プレイヤーによっては選択する行為自体に不満を持つかもしれない、ということである。
ここでは、「利己的でないプレイヤー」 という観点から、「衝突を解消するようなデシジョンを受け入れるプレイヤーがいる」ということを示したといえる。
まとめ
この記事では、以下の主張を行った。
ゲームプレイヤーは、ゲームデザインに対して完全に利己的に不満の解消を要求するわけではない。
このことは、
プレイヤー間の好みの衝突を解消するようなデシジョンを受け入れるプレイヤーがいる
とも言える。
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