更新履歴
2009/7/18: この記事の内容を修正して「ゲームデザインの理論」のドキュメントに追加しました。今後は、こちらのドキュメントを更新していきます。
-----
この記事では以下を主張する。
ゲームデザインにおけるデシジョン(決めたこと)には、ルーチン的なものとルーチン的でないなものが存在する。
これまでの記事では、ゲームデザインを、ゲームデザイナーが決めたこと(デシジョン)の集合であると定義してきた。この記事では、あるデシジョンが既に知られているかどうかの観点から区別する。既に知られているとき、「ルーチン的デシジョン」と呼び、知られていないとき「ルーチン的でないデシジョン」と呼ぶ。
ルーチン的かどうかの区別は、ゲームデザインが全く新しいもの(デシジョン)のみで構成されるわけでないことを強調する。ゲームデザインは、ルーチン的デシジョンとルーチン的でないデシジョンから成る。
ゲームデザインにおいては、しばしば、創造性(クリエイティビティ)が強調され、創造的であることが求められる。創造性は、ルーチン的でないデシジョンを生み出すことを意味する。
しかし、ゲームデザインがルーチン的デシジョンとルーチン的でないデシジョンから成ると見なすなら、創造性のみを強調するのは不十分である。ルーチン的でないデシジョンを行うだけでなく、ルーチン的デシジョンを適切に行わなえなければ、ゲームプレイヤーが満足するようなゲームデザインは生み出せない。
ゲームデザインのプロセス(活動)とは、ここでは、次のような側面に対する様々な決定(デシジョン)を行うことだする。
(1)ゲームのルールの側面: キャラクターのレベルは上がる。レベル制限は99。戦闘はターン制であり、敵と見方が交互に行動を行う、など。
(1.1)ゲームバランスの側面: ある敵のHPは500といった、パラメータの設定など。
(2)ゲームシステムの側面: セーブ数は、10件など。
(2.1)ユーザインタフェースの側面: LボタンとRボタンでキャラクターの切り替えができるなど。
(2.2) システムの品質に関わる非機能要素の側面: たとえば、ロード時間に対する要求。3秒以内に戦闘画面を表示し、ユーザの入力を受け付けなければならない、など。
(3)ゲームの遊び方に関する側面: ゲーム中のBGMを自由に変更できるなど。
ゲームデザインとは、このプロセスの結果として決めたこと(デシジョン)の集合であるとする。
詳細は「ゲームデザインの理論」のドキュメントを参照。
ここでは、具体例をもとに、デシジョンをルーチン的なデシジョンとルーチン的でないデシジョンに区別できることを議論する。
ルーチン的デシジョンとは、既に知られているデシジョンのことを指す。一方で、ルーチン的でないデシジョンとは、知られていないデシジョンを指す。たとえば、現代のRPGにおいて「アイテムの預り所の機能がある」というデシジョンは、ルーチン的である。一方で、過去に初めて「アイテムの預り所の機能がある」というデシジョンが行われた時、そのデシジョンは、ルーチン的でないデシジョンである。
あるデシジョンがルーチン的かどうかは、歴史的な観点により決まる。
もちろん、歴史的な判断を行うのは人であり、ある人がある時点まででの歴史上の全てのゲームを知ることは不可能なため、どの時点であるデシジョンがルーチン的になったかは知ることはできない。
個々のゲームプレイヤーの観点から、あるデシジョンがルーチン的であるかどうかを区別することもできる。
あるゲームプレイヤーがプレイを通じて、ゲームに対する不満を持つ時、それはあるゲームデザイナーが行ったデシジョンとゲームプレイヤーが期待するデシジョンとの間のミスマッチが原因である。この時、そのデシジョンがルーチン的かどうかは問題でなく、不満として扱われる。
ここで重要なのは、二つの種類のデシジョンが存在するということである。つまり「ゲームデザイナーが行った実際のデシジョン」と「ゲームプレイヤーが期待するデシジョン」である。これまでのデシジョンがルーチン的かどうかの区別は、前者、つまり「ゲームデザイナーが行った実際のデシジョン」を対象としてきた。しかし、「ゲームプレイヤーが期待するデシジョン」もルーチン的かどうかで区別することもできる。
また、あるゲームデザイナーの観点から、ゲームプレイヤーが期待するデシジョンがルーチン的かどうかも区別できる。
これら二の観点の観点と歴史的な観点から、5つのケースが考えられる。
(1)歴史的ルーチン的/ルーチン的期待する/ルーチン的期待される: この場合、ゲームデザイナーは、プレイヤーを不満にせずに済んだのかもしれないのに、不満にしてしまったケースだと言える。プレイヤーは、ゲームデザイナーが何も分かってないと思うかもしれない。ただし、もちろん、全てのゲームプレイヤーを満足させることはできない。
(2)歴史的ルーチン的/ルーチン的期待する/ルーチン的でない期待される: この場合、ゲームデザイナーのゲームデザインに対する知識不足が原因で、プレイヤーを不満にさせてしまったケースだと言える。
(3)歴史的ルーチン的/ルーチン的でない期待する/ルーチン的期待される: この場合、(1)と同様であるが、プレイヤーの不満度合いは低いかもしれない。というのも、プレイヤーは、自身が提案する期待するデシジョンにより作られたゲームをプレイした経験がなく、妥当性を評価できていないためである。
(4)歴史的ルーチン的/ルーチン的でない期待する/ルーチン的でない期待される: この場合、(2)と同様であるが、単なる知識獲得だけでなく、適切なデシジョンを行う分析能力と創造性がゲームデザイナーに要求されるかもしれない。
(5)歴史的ルーチン的でない/ルーチン的でない期待する/ルーチン的でない期待される: この場合、不満を避けるのが最も困難だったケースだと言える。
この分析の不十分な点は、あるデシジョンに対して、どれだけのプレイヤーが不満を持っているのかを考慮していない点である。多くのプレイヤーが不満を持つほど、ゲームデザインの不適切さを意味する。
しかしながら、この5つのケースは、上から順に、プレイヤーとデザイナーの間でミスマッチが発生してはならない度合いの大まかな指針となる。
この記事では、以下を主張した。
ゲームデザインにおけるデシジョン(決めたこと)には、ルーチン的なものとルーチン的でないなものが存在する。
ゲームプレイヤーが満足するようなゲームデザインは生み出すには、ルーチン的でないデシジョンを行うだけでなく、ルーチン的デシジョンを適切に行わなえなければならない。
Gero, JS and Kannengiesser, U. Creative designing: An ontological view.
この記事を書くにあたっては、上記の論文を参考にした。特に、ルーチン的・ルーチン的でないという言葉はこの論文から拝借した。この論文では、ルーチン的でないは、さらに、革新的と創造的に区別されている。
ただし、この記事とこの論文では焦点が異なる。この記事では、プロセスの結果としてのデシジョンに着目しているが、論文ではデザインのプロセスの観点からも議論されている。
2009/7/18: この記事の内容を修正して「ゲームデザインの理論」のドキュメントに追加しました。今後は、こちらのドキュメントを更新していきます。
-----
この記事では以下を主張する。
ゲームデザインにおけるデシジョン(決めたこと)には、ルーチン的なものとルーチン的でないなものが存在する。
これまでの記事では、ゲームデザインを、ゲームデザイナーが決めたこと(デシジョン)の集合であると定義してきた。この記事では、あるデシジョンが既に知られているかどうかの観点から区別する。既に知られているとき、「ルーチン的デシジョン」と呼び、知られていないとき「ルーチン的でないデシジョン」と呼ぶ。
ルーチン的かどうかの区別は、ゲームデザインが全く新しいもの(デシジョン)のみで構成されるわけでないことを強調する。ゲームデザインは、ルーチン的デシジョンとルーチン的でないデシジョンから成る。
ゲームデザインにおいては、しばしば、創造性(クリエイティビティ)が強調され、創造的であることが求められる。創造性は、ルーチン的でないデシジョンを生み出すことを意味する。
しかし、ゲームデザインがルーチン的デシジョンとルーチン的でないデシジョンから成ると見なすなら、創造性のみを強調するのは不十分である。ルーチン的でないデシジョンを行うだけでなく、ルーチン的デシジョンを適切に行わなえなければ、ゲームプレイヤーが満足するようなゲームデザインは生み出せない。
ゲームデザインとは何か?
ゲームデザインのプロセス(活動)とは、ここでは、次のような側面に対する様々な決定(デシジョン)を行うことだする。
(1)ゲームのルールの側面: キャラクターのレベルは上がる。レベル制限は99。戦闘はターン制であり、敵と見方が交互に行動を行う、など。
(1.1)ゲームバランスの側面: ある敵のHPは500といった、パラメータの設定など。
(2)ゲームシステムの側面: セーブ数は、10件など。
(2.1)ユーザインタフェースの側面: LボタンとRボタンでキャラクターの切り替えができるなど。
(2.2) システムの品質に関わる非機能要素の側面: たとえば、ロード時間に対する要求。3秒以内に戦闘画面を表示し、ユーザの入力を受け付けなければならない、など。
(3)ゲームの遊び方に関する側面: ゲーム中のBGMを自由に変更できるなど。
ゲームデザインとは、このプロセスの結果として決めたこと(デシジョン)の集合であるとする。
詳細は「ゲームデザインの理論」のドキュメントを参照。
ルーチン的デシジョンとルーチン的でないデシジョン
ここでは、具体例をもとに、デシジョンをルーチン的なデシジョンとルーチン的でないデシジョンに区別できることを議論する。
ルーチン的デシジョンとは、既に知られているデシジョンのことを指す。一方で、ルーチン的でないデシジョンとは、知られていないデシジョンを指す。たとえば、現代のRPGにおいて「アイテムの預り所の機能がある」というデシジョンは、ルーチン的である。一方で、過去に初めて「アイテムの預り所の機能がある」というデシジョンが行われた時、そのデシジョンは、ルーチン的でないデシジョンである。
あるデシジョンがルーチン的かどうかは、歴史的な観点により決まる。
もちろん、歴史的な判断を行うのは人であり、ある人がある時点まででの歴史上の全てのゲームを知ることは不可能なため、どの時点であるデシジョンがルーチン的になったかは知ることはできない。
ゲームプレイヤーにとってのルーチン的デシジョン
個々のゲームプレイヤーの観点から、あるデシジョンがルーチン的であるかどうかを区別することもできる。
あるゲームプレイヤーがプレイを通じて、ゲームに対する不満を持つ時、それはあるゲームデザイナーが行ったデシジョンとゲームプレイヤーが期待するデシジョンとの間のミスマッチが原因である。この時、そのデシジョンがルーチン的かどうかは問題でなく、不満として扱われる。
ここで重要なのは、二つの種類のデシジョンが存在するということである。つまり「ゲームデザイナーが行った実際のデシジョン」と「ゲームプレイヤーが期待するデシジョン」である。これまでのデシジョンがルーチン的かどうかの区別は、前者、つまり「ゲームデザイナーが行った実際のデシジョン」を対象としてきた。しかし、「ゲームプレイヤーが期待するデシジョン」もルーチン的かどうかで区別することもできる。
また、あるゲームデザイナーの観点から、ゲームプレイヤーが期待するデシジョンがルーチン的かどうかも区別できる。
これら二の観点の観点と歴史的な観点から、5つのケースが考えられる。
(1)歴史的ルーチン的/ルーチン的期待する/ルーチン的期待される: この場合、ゲームデザイナーは、プレイヤーを不満にせずに済んだのかもしれないのに、不満にしてしまったケースだと言える。プレイヤーは、ゲームデザイナーが何も分かってないと思うかもしれない。ただし、もちろん、全てのゲームプレイヤーを満足させることはできない。
(2)歴史的ルーチン的/ルーチン的期待する/ルーチン的でない期待される: この場合、ゲームデザイナーのゲームデザインに対する知識不足が原因で、プレイヤーを不満にさせてしまったケースだと言える。
(3)歴史的ルーチン的/ルーチン的でない期待する/ルーチン的期待される: この場合、(1)と同様であるが、プレイヤーの不満度合いは低いかもしれない。というのも、プレイヤーは、自身が提案する期待するデシジョンにより作られたゲームをプレイした経験がなく、妥当性を評価できていないためである。
(4)歴史的ルーチン的/ルーチン的でない期待する/ルーチン的でない期待される: この場合、(2)と同様であるが、単なる知識獲得だけでなく、適切なデシジョンを行う分析能力と創造性がゲームデザイナーに要求されるかもしれない。
(5)歴史的ルーチン的でない/ルーチン的でない期待する/ルーチン的でない期待される: この場合、不満を避けるのが最も困難だったケースだと言える。
この分析の不十分な点は、あるデシジョンに対して、どれだけのプレイヤーが不満を持っているのかを考慮していない点である。多くのプレイヤーが不満を持つほど、ゲームデザインの不適切さを意味する。
しかしながら、この5つのケースは、上から順に、プレイヤーとデザイナーの間でミスマッチが発生してはならない度合いの大まかな指針となる。
まとめ
この記事では、以下を主張した。
ゲームデザインにおけるデシジョン(決めたこと)には、ルーチン的なものとルーチン的でないなものが存在する。
ゲームプレイヤーが満足するようなゲームデザインは生み出すには、ルーチン的でないデシジョンを行うだけでなく、ルーチン的デシジョンを適切に行わなえなければならない。
参考
Gero, JS and Kannengiesser, U. Creative designing: An ontological view.
この記事を書くにあたっては、上記の論文を参考にした。特に、ルーチン的・ルーチン的でないという言葉はこの論文から拝借した。この論文では、ルーチン的でないは、さらに、革新的と創造的に区別されている。
ただし、この記事とこの論文では焦点が異なる。この記事では、プロセスの結果としてのデシジョンに着目しているが、論文ではデザインのプロセスの観点からも議論されている。
PR
トラックバック
トラックバックURL: