はじめに:
『ゲームデザイナーの仕事 プロが教えるゲーム制作の技術』という本が最近発売されました。ゲームを制作する上で参考になる本だと思いました。まだ全部読んでいませんが、ゲームを制作する上で基本的なことを書いてくれているように思います。読んでいて、今まで考えたことがなかったことなども多くあり参考になりそうです。
この本は、最初の方では「ゲームデザイン」という作業の定義から始まり、その作業がさらにどのような作業からなっているのかを説明しています。しかし、「ゲームをデザインする」という活動の本質を考えた場合、もう少し詳細な分析が必要ではないかと思いました。
そこで、この記事では、この本でのゲームデザインの定義とゲームデザインを構成する活動の議論から出発した後、ゲームデザインの本質を理解するえで考えなけばならないことを議論します。特に、ゲームデザインという作業を一般的に捉えた場合、ゲームデザインは、ゲーム制作の形態(商業、もしくは趣味・同人)や開発者数(少数か多数)に依存しない作業としての認識が必要であるとを議論します。
ゲームデザインとは:
『ゲームデザイナーの仕事』では、ゲームデザインを次のように定義しています。
ゲームデザインとはプレイヤーとの信頼関係を築く作業である
としています。
そして、信頼関係を築く方法を、次の二つの言葉で要約しています。
(1)ユーザビリティの概念を持つ。
(2)目的意識を強く持つ。
さて、ゲームデザインを、信頼関係を築く作業であるという観点から定義することの妥当性に関しては、この記事では深く議論しません。ある作業は、異なる観点から特徴付けられると思うからです。そもそも「デザイン」という用語に関してさえ、様々な観点から特徴付けられます。
In Guy Steele's 1998 talk at OOPSLA, 'Growing a Language', he said:A design is a plan for how to build a thing. To design is to build a thing in one's mind but not yet in the real world - oe better yet, to plan how the real thing can be built.I once wrote:Design is the thinking one does before building.Carliss Baldwin and Kim B. Clark define design like this:Designs are the instructions based on knowledge that turn resources into things that people use and value.----- Pattern-Oriented Software Architecture: On Patterns and Pattern Languages
次に、ゲームデザインがどのような作業からなるのかです。『ゲームデザイナーの仕事』では、ゲームデザインは、次の三つの作業からなるとしています。
(1)企画
(2)システムデザイン
(3)バランス調整
「企画」とは、この本によれば
アイデアを企画書にまとめてプレゼンに通すこと
です。
企画はさらに次の作業からなるとしています。
(1.1)企画書の作成
(1.2)予算の承認を得る
(1.3)企画の骨子をプロジェクト参加者に伝える
「企画書」とは、この本によれば
自分たちの考えたアイデアが実現可能であると証明するために、その概要をまとめた書類
です。
「予算の承認を得る」とは、この本によれば
企画がプレゼンテーションに通過する
ということです。
「システムデザイン」とは、この本によれば
企画書でまとめた大雑把なゲームシステムのアイデア、ルールを発展させていく形で、細かな仕様を決めていき、それを仕様書としてまとめる
ということです。「仕様書」とは、
・確率
・計算式
・ルール
・アイテムの効果(パラメータ)
など、ゲームの「仕様」をまとめた設計図とのこととしています。
「バランス調整」は、この本によれば、次のように書いています。
「仕様書の作成まで進めば、あとは実際にゲームを作っていく作業に入ります。グラフィックなどの素材の作成や、プログラミングの作業です。いわゆる「テストプレイ」と「デバッグ」もこの作業に含まれます。デバッグは「バグ取り」などとも呼ばれる、いわゆるプログラム、パラメータなどのミスの修正です」
何が問題か:
以上のことから、この記事で取り上げたい疑問を一言でいうとこうです。
疑問:これらの活動は、ゲームデザインという活動を考える上での必須の活動か?
というのも『ゲームデザイナーの仕事』では次を前提としてゲームデザインを議論しているためです。
(1)ゲームデザインは、商業のゲームを作る際の活動である。
(2)ゲームデザインは、集団で行われる活動である。
現実的な観点からは、これらを前提とするのは適切であると思われます。しかしながら、一般的に言えば、ゲームデザインという活動は、これら二つを前提としない活動であるといえます。なぜなら、次の事実が存在するためです。
(A)商業のものでない、趣味や同人で作られるゲームが存在する。
(B)ゲームは、一人でも作れる。
そのため、この本の議論に従えば、AやBに相当する条件で制作されたゲームは、ゲームデザインの活動を部分的しか伴わないことになります。したがって、ゲームデザインは、必ずしも次の作業を全て伴いません。
(1)企画
(2)システムデザイン
(3)バランス調整
いくつかの作業は、ゲームをデザインするうえで必須の作業ではありません。
たとえば、「企画」という活動は、趣味のゲーム制作であり、かつ小規模なゲームであるなら、不要な活動です。予算という要素は存在しませんし、プレゼンをする必要はありません。プロジェクト参加者に伝えることも不要です。
「システムデザイン」の活動においても、仕様書は必須の成果物ではありません。
また「バランス調整」は、活動としてまとめるには大雑把すぎるのではないかと感じます。たとえば、コンピュータゲームをソフトウェアの一種だとすると、ゲームデザインとソフトウェアデザインとの違いはなんでしょうか?
また、次のような疑問を思い浮かびます。
(a)ゲームを作るうえでプログラミングは必須の作業でしょうか? RPGツクールで制作されたゲームは、デザインされたゲームではないのでしょうか?
(b)役割についても、プログラマーはゲームデザイナーでしょうか? テストプレイヤーは、ゲームデザイナーでしょうか? そもそも、ゲームデザイナーは、ゲームをデザインする、という役割を持つ人をさす用語ではないのでしょうか?
表でまとめると次のようになります。ゲームデザインとはせずに、ゲーム制作での活動としました。活動の分類の軸として、「開発者数」と「制作形態」があるとしました。他の軸もあるかもしれません。
制作の形態 | |||
商業ゲーム | 趣味・同人ゲーム | ||
開発者数 | 少数 | ??? | ??? |
開発者数 | 多数 | (1)企画 (2)システムデザイン (3)バランス調整 |
??? |
まとめ:
ゲーム制作の形態や開発者数に依存することなく、ゲームデザインという活動を認識し、理解を深めていく必要があります。
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