ゲームデザインについての考察シリーズ。今回は、選択肢の管理について。
前回の記事で述べたのは、ゲームデザインも、工学におけるデザイン(設計)と同じように、その特徴の一つは、意思決定を伴う活動であるということだった。つまり、様々な選択肢の中から選択を行うということ。
たとえば、RPGであれば、「パーティの人数」という項目で考えられる選択肢は、「一人」、「二人」、「三人」、などなどがある。他にも、「キャラクターの成長」という項目を考えた場合、「LVUP」や「戦闘回数」といった基本的な代替案が考えられる。
項目(変数) |
選択肢(値の範囲) |
パーティの人数 | 1人~ |
キャラクターの成長 | LVUP、戦闘回数 |
このように、あらゆるゲームは、無数にある項目からある選択を行った決定の結果として存在すると考えられる。
ある項目は、ゲームデザイナーが意識してるかもしれないし、意識していないかもしれない。
今回も、具体的なゲームを題材として取り上げ、ゲームデザインについて考察したい。取り上げるのは、前回と同じくアトラス開発のDSソフトの「世界樹の迷宮」(amazon)である。
「世界樹の迷宮」では、「敵のHPはゲージで表示される」という決定が行われている(ラスボスも含むすべてがそうかどうかは未確認)。
さきほどのRPGの例のように、表で書くとこうなる。
項目 |
選択肢 |
HP表示 | する、しない |
もう少し細かく書くとこうなる。
項目 |
選択肢 |
HP表示 | する、しない |
HP表示方法 | 数値、ゲージ |
「世界樹の迷宮」の場合は、「HP表示」を「する」に、「HP表示方法」を「ゲージ」という決定が行われた。他の選択肢が選べば、異なるデザインになる。
僕は「世界樹の迷宮」のデザイナではないので、なぜ、「HP表示をする」という決定が行われたのかはわからない。ただし、プレイヤー側から、色々と推測をすることはできる。「HP表示」を「する」と「しない」の違いは何か。
僕自身は、HP表示はしないほうがよかったのがないかと思う。なぜなら、「緊張感」が減少するから。たとえば、初めてであった敵と戦うとき、「次の攻撃で倒せるかもしれないし、倒せないかもしれない。」といった不安を感じることがなくなる。
正確な人数は分からないけど、そういう「緊張感」を求めている人もいると思う。
一方で、「HP表示する」という決定は、恐らく、RPG初心者向けに対する配慮なんじゃないかと思う。
上級者は、緊張感がなくてつまらない、と感じるかもしれないし、初心者は、難しすぎてつまらない、と感じるかもしれない。
ビジネス的な配意から、「HP表示する」という決定が行われたということもわかる。
しかし、ここでの疑問は、初心者と上級者の両方の立場のユーザを満足させる決定はできなかったのか、という点。この問題に対する古典的な解決策は、難易度を明示的にユーザが決定できるようにすること。あるいは、オプションなどで、「敵HPの表示」を「オン」や「オフ」に切り替えられるようにすること。
ただし、この解の問題点の一つは、バランスを取るのが難しくなるかもしれない点かもしれない。
ここでは、例としてゲームのオプションとして、「敵HPの表示」を「オン」や「オフ」に切り替えられるようにするゲームデザイン上の決定が行われるとしよう。さきほどと同じように、表を書いてみる。
項目 |
選択肢 |
オプションで敵HP表示のオン・オフ切り替えをできるようにするか | する、しない |
敵HP表示 | する、しない |
敵HPの表示方法 | 数値、ゲージ |
可能な組み合わせ(デザイン)は次のようになる。
(1)「する」「---」「数値」
(2)「する」「---」「ゲージ」
(3)「しない」「する」「数値」
(4)「しない」「する」「ゲージ」
(5)「しない」「しない」「----」
(1)と(2)で、二番目の項目が「---」になっているのは、オプションで切り替え可能にした場合、もうすでに敵HP表示の可能性を含んでいるため。別の言い方をすれば、二番目の項目は、「オプションで切り替え可能にしない」場合を選んだ場合にのみ、選択が必要な項目。
オプションの項目を考慮したのとしない場合で、どんな違いが出るのかを見てみよう。
項目 |
選択肢 |
敵HP表示 | する、しない |
敵HP表示方法 | 数値、ゲージ |
この場合の組み合わせは、
(1)「する」「数値」
(2)「しない」「ゲージ」
(3)「しない」「---」
の三つとなる。
何が違いか? 数十分悩んだ結果、分かったのは次のこと。
オプションにより切り替え可能にするかどうかは、ユーザがゲームデザインできるデザインにするかどうかである。
まず、デザインという活動の前提から議論を開始しよう。
(1)デザインという活動は、選択肢から選択するという決定を行う活動である。
次に、ゲームデザイナの定義を仮にこうしよう。
(2)ゲームデザイナは、暗黙的・明示的に項目を設定し、選択肢を考慮し、ある決定を行う。
次に、もう一度、二つの表を考察しよう。
項目 |
選択肢 |
敵HP表示 | する、しない |
敵HP表示方法 | 数値、ゲージ |
この表の場合、「敵HP表示」や「敵HP表示方法」の選択肢からどれを選ぶかは、ゲームデザイナの考えにより決まる。
項目 |
選択肢 |
オプションで敵HP表示のオン・オフ切り替えをできるようにするか | する、しない |
敵HP表示 | する、しない |
敵HPの表示方法 | 数値、ゲージ |
一方、こちらの表の場合、二番目の項目、つまり、「敵HP表示」は、ゲームデザイナだけが決定する権限があるとは限らない。オプションという戦略は、ユーザがあらかじめ決められた項目に対し、デザイン上の決定を行えるようにする。
つまり、後者の表の場合、最初の項目の選択により、次のような二つの表が現れる。
項目 |
選択肢 |
実際の選択 |
選択者 |
オプションで敵HP表示のオン・オフ切り替えをできるようにするか | する、しない | する | ゲームデザイナ |
敵HP表示 | する、しない | --- | ユーザ |
敵HPの表示方法 | 数値、ゲージ | 未選択 | ゲームデザイナ |
項目 |
選択肢 |
実際の選択 |
選択者 |
オプションで敵HP表示のオン・オフ切り替えをできるようにするか | する、しない | しない | ゲームデザイナ |
敵HP表示 | する、しない | 未選択 | ゲームデザイナ |
敵HPの表示方法 | 数値、ゲージ | 未選択 | ゲームデザイナ |
このようにすることで、「オプション項目なし」の表は、「オプション可能にしない場合」の表と(ほとんど)同一であることが分かる。
まとめ:
(1)ゲームデザインという活動の一つの側面は、意思決定、つまり、
(1.1)決断が必要となるどのような項目があるのかを考え、
(1.2)各項目における選択肢は何があるのかを考え、
(1.3)ある項目におけるどの選択肢が適切なのかを決定することである。
(2)選択肢からの選択は、他の可能性を排除すること、つまり、そのゲームに適したユーザを制限することである。
(3)ゲームオプションなどの項目の考慮により、ゲームデザイナが行っていた決定をユーザが行えるようにできる。それにより、ユーザは、ある範囲においては自分に適したゲームをデザインできる権限を持つ。
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