マネジメントのような社会科学では、前提や仮定がそのままパラダイム(支配的な一般理論)となる。それらの前提は、学者、評論家、教師、実務家が無意識のうちにもつ。それが、彼らにとっての現実、その分野における現実となる。現実を規定する。それどころか、その分野が何についてのものであるかさえ規定する。さらには、排除すべきもの、無視すべきものを規定する。
P.F. ドラッカー, 明日を支配するもの―21世紀のマネジメント革命
ゲーム開発には、社会科学の側面があるかもしれないし、ないかもしれない。ないとしても、前提を考えてみるのは重要かもしれない。
疑問: ゲームを開発する上での前提は何だろうか?
この記事では、より具体的に、次の疑問を考えたい。
疑問: より多くの人に、より長い間遊んでもらえるゲームを作る、というのはゲームを開発する上での前提だろうか?
一つ目の前提、より多くの人に遊んでもらえる、楽しんでもらえるゲームを作るというのは、そのままの意味である。
この図では、あるゲームをより多くの人が楽しめるようにするという改善・修正活動は、そのゲームのデザインに適用されるとして表している。ゲームデザインとは、このゲームを作るために決定された結果の集合だと考えている。たとえば、RPGでいえば、LVのあがりやすさのパラメータの調整や、ゲームのテンポ、ユーザインタフェースに関する決定結果を意味する。
二つ目の前提、より長い間遊んでもらえる、楽しんでもらえるゲームを作るというのは、ゲームのクリアに必要な時間ではなく、ゲームを自由にプレイすることを意味する。コンピュータゲームでないゲーム、たとえば将棋は一回の対局で終わりでない。同じように、コンピュータゲームも一度クリアし、エンディングに到達したとしても、楽しみ方が残されていればまだ遊ぶことができる。
「より多くの人に、より長い間遊んでもらえるゲームを作る」を前提とし、「楽しめる人の数」と「楽しめる時間」を軸にして図で表すとこうなる。
この図に基づいて考えると、大雑把には、あるゲームのデザイン状態は次の4つのどれかに当てはまる。
楽しめる人の数 | 楽しめる時間 | |
理想でないゲーム | 少ない | 短い |
まだ理想でないゲーム | 少ない | 長い |
まだ理想でないゲーム | 多い | 短い |
理想とするゲーム | 多い | 長い |
もちろん、何人以上もしくは何時間以上あればある状態であるという一般的な基準はない。さらには、あるゲームのデザイン状態から、楽しめる人の数や楽しめる時間のデータを取ること自体も容易ではない。そのため、以前の状態よりより多くの人が楽しめるようになったのか、より長く楽しめるようになったかの比較も容易ではない。
この二つの前提が意味するのは、状態の意図的な変換の向きが決まっているということだといえる。ここで意図的と書いたのは、状態のデータ(楽しめる人の数や楽しめる時間)を得ることは容易でないため、意図しない逆の変換が行われる可能性があるからである。
意図的な変換の向きには、二つある。
(1)楽しめる人の数を増やす変換
(2)楽しめる時間を長くする変換
では、これらの二つの変換の妥当性は何か。言い換えれば、二つの前提は妥当な前提か。妥当でないとするなら、図で表すとこうなる。
この場合、意図的な変換の向きは4つになる。
(1)楽しめる人の数を増やす変換
(2)楽しめる人の数を減らす変換
(3)楽しめる時間を長くする変換
(4)楽しめる時間を短くする変換
次の記事では、これら変換の意味する観点から、ゲーム開発での前提を考えたい。さらには、他の軸がどうかどうかについても考えたい。
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