疑問:優れたゲームデザインの構造には、何らかの繰り返し起こる特性があるのか?
前準備
上記の疑問に答えるには、まず、以下のような事柄に対する何らかの定義が必要です。
(1)ゲームデザインとは何か?
(2)ゲームデザインの構造とは何か?
(3)ゲームデザインの構造の特性とは何か?
(4)優れたゲームデザインの構造とは何か?
ゲームデザインとは何か?
ゲームデザインのプロセス(活動)とは、ここでは、次のような側面に対する様々な決定を行うことだとします。
(1)ゲームのルールの側面: キャラクターのレベルは上がる。レベル制限は99。戦闘はターン制であり、敵と見方が交互に行動を行う、など。
(1.1)ゲームバランスの側面: 敵のパラメータ設定など。
(2)ゲームシステムの側面: セーブ数は、10件など。
(2.1)ユーザインタフェースの側面: LボタンとRボタンでキャラクターの切り替えができるなど。
(2.2) システムの品質に関わる非機能要素の側面: たとえば、ロード時間に対する要求。3秒以内に戦闘画面を表示し、ユーザの入力を受け付けなければならない、など。
(3)ゲームの遊び方に関する側面: ゲーム中のBGMを自由に変更できるなど。
ゲームデザインとは、このプロセスの結果として決めたことの集合であるとします。
ゲームデザインの構造とは何か?
ゲームデザインとは、決めたことの集合であるとしました。決めたことは、独立しているのではなく、他の決めたことと関係を持ちます。たとえば「レベル制限は99」という決定は「キャラクターのレベルは上がる」という決定がまずなされていなければなりません。
ここでは、ゲームデザインの構造とは、決めたこと(構造要素)とその間の関係からなる概念だとします。
ゲームデザインの構造の特性とは何か?
構造が得られたのなら、構造から何らかの性質・特性を考察することができます。たとえば、ある決めたことは、決めたことの多くとの関係を持つかもしれません。他の分野での例を挙げるなら、たとえば、建物と建物の間の関係です。駅の周辺にある建物の種類や数は、病院の周辺にある建物の種類や数とは異なると考えられます。
優れたゲームデザインの構造とは何か?
優れていると見なされるゲームデザインの構造には、共通の特性があるかもしれません。
この疑問に答えるには、以下の順序での分析が必要です。
(1)優れている、優れていないに関わらず、個々のゲームのデザインがどのような構造を持つのか、そして、その構造からどのような特性が得られるのか。
(2)得られた特性は、繰り返し起こるような共通性があるのか。
構造特性の例:対称性(シンメトリー)
対称性とは、Wikipediaによると次のような性質です。
対称性(たいしょうせい)、又はシンメトリー(Symmetry)とは、ある変換に関して不変である性質のことを言う。この例では、ゲームデザインの構造には、(局所的な)対称性があるかもしれないということを議論します。
例とするのは、ゲームでの呪文・魔法・スキルの要素です。たとえば、ドラクエでは「メラ」、FFでは「ファイア」、女神転生シリーズでは「アギ」などです。
これらある種の呪文・魔法・スキルで共通する点として、以下の二つに着目したいと思います。
(1)属性でグループ化されている。たとえば、炎系、氷系、雷系など。
(2)威力の観点から段階的な関係がある。たとえば、メラ、メラミ、メラゾーマ。
これらの点が、要素間の関係性となります。したがって、構造を形成します。
具体的には、たとえばペルソナ4では以下です。
アギ系 | ブフ系 | ジオ系 | ガル系 |
アギ | ブフ | ジオ | ガル |
アギラオ | ブフーラ | ジオンガ | ガルーラ |
アギダイン | ブフダイン | ジオダイン | ガルダイン |
ラグナロク | ニブルヘイム | 真理の雷 | 万物流転 |
FF5では以下です。
ファイア系 | ブリザド系 | サンダー系 |
ファイア | ブリザド | サンダー |
ファイラ | ブリザラ | サンダラ |
ファイガ | ブリザガ | サンダガ |
ドラクエ5では以下です。
メラ系 | ギラ系 | イオ系 | ヒャド系 | バギ系 |
メラ | ギラ | イオ | ヒャド | バギ |
メラミ | ベギラマ | イオラ | ヒャダルコ | バギマ |
メラゾーマ | ベギラゴン | イオナズン | マヒャド | バギクロス |
一方で、ドラクエ4では以下です。
メラ系 | ギラ系 | イオ系 | ヒャド系 | バギ系 |
メラ | ギラ | イオ | ヒャド | バギ |
メラミ | ベギラマ | イオラ | ヒャダルコ | バギマ |
メラゾーマ | ベギラゴン | イオナズン | ヒャダイン | バギクロス |
マヒャド |
構造の特性の観点から、考察したいのは、なぜ以下の事実があるのかという点です。
(1)ペルソナ4、FF5、ドラクエ5では、ある属性に含まれる魔法の数が同じである。それぞれ、4個、3個、4個。
(2)ドラクエ4では、ヒャド系だけが、4個でなく、5個の魔法がある。
(3)ドラクエ5では、ヒャド系が他の属性の数と同じに変更されている。
この観察はある意味では、正しくありません。なぜなら、観察対象とする魔法の属性を制限しているためです。たとえば、ザキ系には、ザキとザラキの二つしかありません。とはいえ、ザキ系が、大きなグループとしてのメラ系、ギラ系、イオ系、ヒャド系、バギ系とは異なり、このグループに属さないというのは直感的に正しく思えます。この点については別の記事で考察します。
これらペルソナ、FF、ドラクエは単なる例です。後に、一般的な考察をするために、以下では、先ほどの表を次のように簡略化した図で議論したいと思います。
この図では、丸い図が、魔法・呪文を表します(なお、ドラクエ5については省略しました)。今回の議論では、以下の部分を抽象化(情報のフィルタリング)しています。
・威力の関係: 各魔法は、威力ごとに丸の大きさを変化させるのではなく、全て同じ大きさで表現しています。
・属性間の関係: 各属性を四角や三角で区別することなく丸で表現しています。
対称性が観察できるのは、ある属性からある属性への横の関係を見た場合です。ペルソナ4やFF5では、属性の位置を横にずらしても、丸は変わりません。たとえば、「アギ系、ブフ系、ジオ系、ガル系」を「ガル系、アギ系、ブフ系」として横にずらしても、丸の図の部分は同じです。
一方で、非対称性があるのは、ドラクエ4です。横に一つずらすと、異なる図になります。
少し分かりにくいので、図自体を変更してみます。
一般化した図で、対象性・非対称性を含む構造を持つゲームデザイン構造を表すと次のようになります。
対称性の構造を持つゲームをデザインする
図で示したような特性を、対称性と呼んでいいのかは議論の余地があるかもしれません。しかし、何と呼ぼうとも、ゲームデザインの構造上の可変な部分として図で示したような特性があるのは事実です。また、恐らく現在の多くのRPGなどのゲームが、魔法・呪文・スキルについては、対称性を持つようにデザインされているのではないかと思います。
このことからは、次の疑問を生みます。
(1)魔法・呪文・スキルについて、現在の多くのゲームデザインが対称性を備えているのは、何か合理的な理由があるのか? 何らかの原理に基づいているのか?
(2)面白い・優れている(といわれる)ゲームのデザインは、魔法・呪文・スキルについて対称性を備えているのか?
(3)魔法・呪文・スキルといった部分的な構造だけでなく、ゲームデザインの構造の全てが、対称性もしくは、非対称性のどちらかを備えているべきなのか?
おまけ:参考文献
この記事を書くにあたっては、Christopher Alexander さんの『The Nature of Order』という本を意識しました。この本によれば、生き生きとしたモノ(建物のような人工物と生き物)は、次のような、15の構造上の特性を備えるとしています。
1. LEVELS OF SCALE
2. STRONG CENTERS
3. BOUNDARIES
4. ALTERNATING REPETITION
5. POSITIVE SPACE
6. GOOD SHAPE
7. LOCAL SYMMETRIES
8. DEEP INTERLOCK AND AMBIGUITY
9. CONTRAST
10. GRADIENTS
11. ROUGHNESS
12. ECHOES
13. THE VOID
14. SIMPLICITY AND INNER CALM
15. NON-SEPARATENESS
7番目のLOCAL SYMMETRIESが今回の記事の議論と関係します。
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コメント
コメントありがとうございます。「対称性の構造を持つゲームをデザインする」へのコメントだと解釈します。
非対称のメラの例は、「メラ」と「その他の攻撃手段」と比べて、ダメージ量の観点からの非対称性だと解釈しました。
それから関連するかもしれないこととして、スキル(魔法など)取得順序or時系列的な対称・非対称性もあるかな、と思いました。
たとえば、最近のゲームでプレイヤーがスキルを自由に選択できる場合、炎、氷、雷といった属性のスキルを自由に選択できるという感じです。この場合対称といえるかもしれません。
非対称の場合は、取得できる順序を選択できないというケースです。
非対称のメラの例は、「メラ」と「その他の攻撃手段」と比べて、ダメージ量の観点からの非対称性だと解釈しました。
それから関連するかもしれないこととして、スキル(魔法など)取得順序or時系列的な対称・非対称性もあるかな、と思いました。
たとえば、最近のゲームでプレイヤーがスキルを自由に選択できる場合、炎、氷、雷といった属性のスキルを自由に選択できるという感じです。この場合対称といえるかもしれません。
非対称の場合は、取得できる順序を選択できないというケースです。
posted by asatoat 2009/03/08 13:28 [ コメントを修正する ]
はじめまして。
「対称性」があることの利益をちょっと考えてみると、
1.ゲームプレイヤーにとって、システムを理解する速度が速くなる
2.製作サイドでも、フォーマットが一定になっているのでバランス調整がしやすい
という二面があるような気がしました。
ご参考までに。
非対照なシステムとの比較の上でのよしあしがどこらへんにくるのか、次のエントリ期待しております。
「対称性」があることの利益をちょっと考えてみると、
1.ゲームプレイヤーにとって、システムを理解する速度が速くなる
2.製作サイドでも、フォーマットが一定になっているのでバランス調整がしやすい
という二面があるような気がしました。
ご参考までに。
非対照なシステムとの比較の上でのよしあしがどこらへんにくるのか、次のエントリ期待しております。
コメントありがとうございます。
ゲームプレイヤー側・製作サイド側のそれぞれの観点から、対称性の利益を考えてみるのはよさそうに思えました。
「システムを理解する速度が速くなる」については、何とかしてもっと(実験・議論等で)検証できるとよいかなあ、と思いました。
たとえば「対称性があると予測性が向上するので理解の速度が速くなる」といえるのかな、と思いました。こうすると検証項目は次のように分解できるかなと。
(1)対称性があると予測性が向上するのかどうか
(2)予測性が高いと、理解の速度が速くなるのかどうか
とにかく、他にもどんな利益があるのかも考えてみます。
ゲームプレイヤー側・製作サイド側のそれぞれの観点から、対称性の利益を考えてみるのはよさそうに思えました。
「システムを理解する速度が速くなる」については、何とかしてもっと(実験・議論等で)検証できるとよいかなあ、と思いました。
たとえば「対称性があると予測性が向上するので理解の速度が速くなる」といえるのかな、と思いました。こうすると検証項目は次のように分解できるかなと。
(1)対称性があると予測性が向上するのかどうか
(2)予測性が高いと、理解の速度が速くなるのかどうか
とにかく、他にもどんな利益があるのかも考えてみます。
posted by asatoat 2009/03/22 09:50 [ コメントを修正する ]
【お約束を丁寧に積み上げていく】
ゲームには向くと思います。
FF10のように。
非対称
プレイヤーに【未知なことを色々試行錯誤させたい】なら、有効だと思います。
FF8とか、DQ3とか。
DQ3のメラは
「全初期レベルのキャラ中、
唯一10ダメージ与えられる手段」で、
初心者に、魔法使いの有用性を
気付かせるのが狙いだったと思います。