更新履歴
2009/9/10: この記事の内容を修正して「ゲームデザインの理論」のドキュメントに追加しました。今後は、こちらのドキュメントを更新していきます。
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この記事では、以下を主張する。
(a) ゲームプレイヤーは、ゲームプレイ時に、プレイヤー自身によりゲームの目標を設定する
(b) ゲームプレイヤーは、自身が設定した目標の達成が困難であるとき、不満を持つ
このことは、以下を意味する。
ゲームデザインのプロセスでは、
(A) 現状のゲームデザインからプレイヤーがどのような目標を設定し、
(B) その目標がいかに達成されるのかを考慮し、
(C) 達成の困難さに基づき、ゲームデザインを修正していく必要がある
ゲームデザインのプロセス(活動)とは、ここでは、次のような側面に対する様々な決定(デシジョン)を行うことだする。
(1)ゲームのルールの側面: 「キャラクターのレベルは上がる」、「レベル制限は99」、「戦闘はターン制であり、敵と見方が交互に行動を行う」、など。
(1.1)ゲームバランスの側面: 「ある敵のHPは500」といった、パラメータの設定など。
(2)ゲームシステムの側面: 「セーブ数は、10件」など。
(2.1)ユーザインタフェースの側面: 「LボタンとRボタンでキャラクターの切り替えができる」など。
(2.2) システムの品質に関わる非機能要素の側面: たとえば、ロード時間に対する要求。3秒以内に戦闘画面を表示し、ユーザの入力を受け付けなければならない、など。
(3)ゲームの遊び方に関する側面: ゲーム中のBGMを自由に変更できるなど。
ゲームデザインとは、このプロセスの結果として決めたこと(デシジョン)の集合であるとする。
詳細は「ゲームデザインの理論」のドキュメントを参照。
この記事では、ゲームプレイヤーの一つの側面を議論する。それは、
ゲームプレイヤーは、ゲームプレイ時に、プレイヤー自身によりゲームの目標を設定する
ということである。
以下では、プレイヤーの目標設定がいかにゲームに対するプレイヤーの不満に結びつくのかを実例をもとに見ていく。つまり、
ゲームプレイヤーは、自身が設定した目標の達成が困難であるとき、不満を持つ
ことを見ていく。
NDSのSRPGの『女神異聞録デビルサバイバー』のレビューでは、次の不満が挙げられていた。
■セーブ箇所が1つ。マルチエンディングではっきりしたストーリー分岐が最終日のみにも関わらずセーブは1箇所。2・3週目くらいまでは初プレイと同様楽しく進められそうだが、エンディングコンプのために周回を重ねるとなるとその都度最初からやり直す羽目になるので流石に飽きそうな予感。
この不満の表現からは、次のような要素を特定できる。
・プレイヤーの設定した目標:エンディングコンプリート
・デザイナーの行ったデシジョン: マルチエンディングである
・デザイナーの行ったデシジョン: セーブ箇所は一つである
・プレイヤーの不満(避けたいこと): 他のエンディングを見るまでに飽きる(かも)
下記の図は、これら要素間の関係を表している。
この実例をもとに、以下のことが考察できる。
(1) プレイヤー依存の目標設定: 「エンディングコンプリート」という目標は、全てのプレイヤーが目標とするものではない。したがって、一般的に、プレイヤーによって設定される目標は、プレイヤーによっては異なる。
(2) プレイヤーとデザイナーの目標設定の違い: 「エンディングコンプリート」という目標は、デザイナー(作り手側)が想定した目標ではないかもしれない。したがって、一般的に、プレイヤーはデザイナーが想定しなかったような目標を設定することがある。
(3) デシジョンから発生する目標: 「エンディングコンプリート」という目標は、「マルチエンディングである」というデシジョンがなければ発生しない。たとえば、「シングルエンディングである」というデシジョンによるゲームの場合、「エンディングコンプリート」という目標はプレイヤーによって設定されない。したがって、一般的に、あるデシジョンの存在がある目標が設定の要因となる。
(4) 目標を阻害するデシジョン: 「エンディングコンプリート」という目標は、「セーブ箇所が一つである」というデシジョンが存在することにより、達成が難しくなる。
他の実例でもう少し検証する。
NDSのRPGの『セブンスドラゴン』のレビューでは、次の不満が挙げられていた。
● アイテム所持数制限
他の方も書かれている通り、100個しか持てません。
それはそれで、せめてギルドの倉庫みたいなものがあったらよかったなーと思うところ。
ただ、アイテムを持たなくても十分戦えるパーティーにすることもできるようですし、いらんものをぽんぽん売れば、十分な数かも、とも思います。
武器や防具なんかをとっておけないのは、コレクターさんには辛いかもしれません。
この不満の表現に対しては、「武器や防具のコレクト」という目標の観点から、先ほどの事例と同じように考える。
・プレイヤーの設定した(するかもしれない)目標:武器や防具のコレクト
・デザイナーの行ったデシジョン: 武器や防具がある
・デザイナーの行ったデシジョン: アイテムの最大所持数は100個
・プレイヤーの不満: 武器や防具をとっておけない
先ほどの考察がこの例でも同じ考察ができるか確認する。
(1) プレイヤー依存の目標設定: 全てのプレイヤーが「武器や防具のコレクト」を目標とするわけではない。
(2) プレイヤーとデザイナーの目標設定の違い: この項目に関しては確かなことは言えない。デザイナーは「武器や防具のコレクト」という目標を想定しなかったかもしれない。
(3) デシジョンから発生する目標: 「武器や防具のコレクト」という目標は、「武器や防具がある」というデシジョンから発生する。
(4) 目標を阻害するデシジョン: 「武器や防具のコレクト」という目標は、「アイテムの最大所持数は100個」というデシジョンが存在することにより、達成が不可能になる。
ここまでをまとめると、ゲームプレイヤーについて以下が言える。
(a) ゲームプレイヤーは、ゲームプレイ時に、プレイヤー自身によりゲームの目標を設定する
(b) ゲームプレイヤーは、自身が設定した目標の達成が困難であるとき、不満を持つ
ゲームデザインとゲームデザインのプロセスについては、次節で議論する。
前節では、ゲームプレイヤーについて以下の特徴付けを行った。
(a) ゲームプレイヤーは、ゲームプレイ時に、プレイヤー自身によりゲームの目標を設定する
(b) ゲームプレイヤーは、自身が設定した目標の達成が困難であるとき、不満を持つ
また、以下の考察を示した。
(1) プレイヤー依存の目標設定
(2) プレイヤーとデザイナーの目標設定の違い
(3) デシジョンから発生する目標
(4) 目標を阻害するデシジョン
ゲームデザインの観点からは、以下のように言える。
・(3)と(4)が(a)と(b)に関係する。つまり、プレイヤーの不満は、ゲームデザインを構成するデシジョン間の不整合により発生する。
・また、(1)と(2)は、不整合の発生の起こりやすさに影響する。つまり、デザイナーがプレイヤーが設定するかもしれない目標を適切に想定するのは困難である。
まずは前者を議論する。前節の二つの例をプレイヤーの目標を妨げないようにするという観点から再デザインする。
以下の図は、一つ目の実例の再デザインの例である。
この再デザインでは、「セーブ箇所は一つである」というデシジョンを「セーブ箇所は二つである」というデシジョンに変更した。これにより、「エンディングコンプリート」という目標の達成が容易になる。
同じように以下の図は、二つ目の実例の再デザインの例である。
この再デザインでは、プレイヤーの提案を採用し「倉庫がある」というデシジョンを追加した。また「最大格納数は500個」というデシジョンも追加した。これらのデシジョンにより、「武器や防具のコレクト」という目標の達成が容易になる。
以上のことから、
ゲームデザイン上のデシジョンが、プレイヤーの目標の設定と目標の達成の困難さから発生する不満を決める
ことを示した。
次に、このようなデシジョンを行う上で以下の二つがどのように影響するのかを考える。
(1) プレイヤー依存の目標設定
(2) プレイヤーとデザイナーの目標設定の違い
(1)は、あるゲームデザイン上のデシジョンから発生する目標は、プレイヤーによって異なることを意味している。
(2)は、デザイナーが各プレイヤーが設定するかもしれない目標の推測が容易ではないかもしれないことを意味してる。容易ではないのでは、(1)の結果から、発生する目標は多様であるかもしれないためである。
結論としては、プレイヤーの目標設定から発生する不満を少なくするために、
ゲームデザインのプロセスでは、
(A) 現状のゲームデザインからプレイヤーがどのような目標を設定し、
(B) その目標がいかに達成されるのかを考慮し、
(C) 達成の困難さに基づき、ゲームデザインを修正していく必要がある
といえる。このA~Cのサイクルを容易にするには、たとえば、あるデシジョンからどのような目標が設定されるのか、ということを収集し、再利用することが考えられる。
この記事では、事例をもとに、ゲームでプレイヤーに関して以下が観察できることを示した。
(a) ゲームプレイヤーは、ゲームプレイ時に、プレイヤー自身によりゲームの目標を設定する
(b) ゲームプレイヤーは、自身が設定した目標の達成が困難であるとき、不満を持つ
この観察をもとに、以下を議論した。
ゲームデザインのプロセスでは、
(A) 現状のゲームデザインからプレイヤーがどのような目標を設定し、
(B) その目標がいかに達成されるのかを考慮し、
(C) 達成の困難さに基づき、ゲームデザインを修正していく必要がある
2009/9/10: この記事の内容を修正して「ゲームデザインの理論」のドキュメントに追加しました。今後は、こちらのドキュメントを更新していきます。
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この記事では、以下を主張する。
(a) ゲームプレイヤーは、ゲームプレイ時に、プレイヤー自身によりゲームの目標を設定する
(b) ゲームプレイヤーは、自身が設定した目標の達成が困難であるとき、不満を持つ
このことは、以下を意味する。
ゲームデザインのプロセスでは、
(A) 現状のゲームデザインからプレイヤーがどのような目標を設定し、
(B) その目標がいかに達成されるのかを考慮し、
(C) 達成の困難さに基づき、ゲームデザインを修正していく必要がある
■ ゲームデザインとは何か?
ゲームデザインのプロセス(活動)とは、ここでは、次のような側面に対する様々な決定(デシジョン)を行うことだする。
(1)ゲームのルールの側面: 「キャラクターのレベルは上がる」、「レベル制限は99」、「戦闘はターン制であり、敵と見方が交互に行動を行う」、など。
(1.1)ゲームバランスの側面: 「ある敵のHPは500」といった、パラメータの設定など。
(2)ゲームシステムの側面: 「セーブ数は、10件」など。
(2.1)ユーザインタフェースの側面: 「LボタンとRボタンでキャラクターの切り替えができる」など。
(2.2) システムの品質に関わる非機能要素の側面: たとえば、ロード時間に対する要求。3秒以内に戦闘画面を表示し、ユーザの入力を受け付けなければならない、など。
(3)ゲームの遊び方に関する側面: ゲーム中のBGMを自由に変更できるなど。
ゲームデザインとは、このプロセスの結果として決めたこと(デシジョン)の集合であるとする。
詳細は「ゲームデザインの理論」のドキュメントを参照。
■ ゲームプレイヤー自身によるゲームの目標の設定
この記事では、ゲームプレイヤーの一つの側面を議論する。それは、
ゲームプレイヤーは、ゲームプレイ時に、プレイヤー自身によりゲームの目標を設定する
ということである。
以下では、プレイヤーの目標設定がいかにゲームに対するプレイヤーの不満に結びつくのかを実例をもとに見ていく。つまり、
ゲームプレイヤーは、自身が設定した目標の達成が困難であるとき、不満を持つ
ことを見ていく。
NDSのSRPGの『女神異聞録デビルサバイバー』のレビューでは、次の不満が挙げられていた。
■セーブ箇所が1つ。マルチエンディングではっきりしたストーリー分岐が最終日のみにも関わらずセーブは1箇所。2・3週目くらいまでは初プレイと同様楽しく進められそうだが、エンディングコンプのために周回を重ねるとなるとその都度最初からやり直す羽目になるので流石に飽きそうな予感。
この不満の表現からは、次のような要素を特定できる。
・プレイヤーの設定した目標:エンディングコンプリート
・デザイナーの行ったデシジョン: マルチエンディングである
・デザイナーの行ったデシジョン: セーブ箇所は一つである
・プレイヤーの不満(避けたいこと): 他のエンディングを見るまでに飽きる(かも)
下記の図は、これら要素間の関係を表している。
この実例をもとに、以下のことが考察できる。
(1) プレイヤー依存の目標設定: 「エンディングコンプリート」という目標は、全てのプレイヤーが目標とするものではない。したがって、一般的に、プレイヤーによって設定される目標は、プレイヤーによっては異なる。
(2) プレイヤーとデザイナーの目標設定の違い: 「エンディングコンプリート」という目標は、デザイナー(作り手側)が想定した目標ではないかもしれない。したがって、一般的に、プレイヤーはデザイナーが想定しなかったような目標を設定することがある。
(3) デシジョンから発生する目標: 「エンディングコンプリート」という目標は、「マルチエンディングである」というデシジョンがなければ発生しない。たとえば、「シングルエンディングである」というデシジョンによるゲームの場合、「エンディングコンプリート」という目標はプレイヤーによって設定されない。したがって、一般的に、あるデシジョンの存在がある目標が設定の要因となる。
(4) 目標を阻害するデシジョン: 「エンディングコンプリート」という目標は、「セーブ箇所が一つである」というデシジョンが存在することにより、達成が難しくなる。
他の実例でもう少し検証する。
NDSのRPGの『セブンスドラゴン』のレビューでは、次の不満が挙げられていた。
● アイテム所持数制限
他の方も書かれている通り、100個しか持てません。
それはそれで、せめてギルドの倉庫みたいなものがあったらよかったなーと思うところ。
ただ、アイテムを持たなくても十分戦えるパーティーにすることもできるようですし、いらんものをぽんぽん売れば、十分な数かも、とも思います。
武器や防具なんかをとっておけないのは、コレクターさんには辛いかもしれません。
この不満の表現に対しては、「武器や防具のコレクト」という目標の観点から、先ほどの事例と同じように考える。
・プレイヤーの設定した(するかもしれない)目標:武器や防具のコレクト
・デザイナーの行ったデシジョン: 武器や防具がある
・デザイナーの行ったデシジョン: アイテムの最大所持数は100個
・プレイヤーの不満: 武器や防具をとっておけない
先ほどの考察がこの例でも同じ考察ができるか確認する。
(1) プレイヤー依存の目標設定: 全てのプレイヤーが「武器や防具のコレクト」を目標とするわけではない。
(2) プレイヤーとデザイナーの目標設定の違い: この項目に関しては確かなことは言えない。デザイナーは「武器や防具のコレクト」という目標を想定しなかったかもしれない。
(3) デシジョンから発生する目標: 「武器や防具のコレクト」という目標は、「武器や防具がある」というデシジョンから発生する。
(4) 目標を阻害するデシジョン: 「武器や防具のコレクト」という目標は、「アイテムの最大所持数は100個」というデシジョンが存在することにより、達成が不可能になる。
ここまでをまとめると、ゲームプレイヤーについて以下が言える。
(a) ゲームプレイヤーは、ゲームプレイ時に、プレイヤー自身によりゲームの目標を設定する
(b) ゲームプレイヤーは、自身が設定した目標の達成が困難であるとき、不満を持つ
ゲームデザインとゲームデザインのプロセスについては、次節で議論する。
■ ゲームプレイヤーの目標を考慮するゲームデザインとプロセス
前節では、ゲームプレイヤーについて以下の特徴付けを行った。
(a) ゲームプレイヤーは、ゲームプレイ時に、プレイヤー自身によりゲームの目標を設定する
(b) ゲームプレイヤーは、自身が設定した目標の達成が困難であるとき、不満を持つ
また、以下の考察を示した。
(1) プレイヤー依存の目標設定
(2) プレイヤーとデザイナーの目標設定の違い
(3) デシジョンから発生する目標
(4) 目標を阻害するデシジョン
ゲームデザインの観点からは、以下のように言える。
・(3)と(4)が(a)と(b)に関係する。つまり、プレイヤーの不満は、ゲームデザインを構成するデシジョン間の不整合により発生する。
・また、(1)と(2)は、不整合の発生の起こりやすさに影響する。つまり、デザイナーがプレイヤーが設定するかもしれない目標を適切に想定するのは困難である。
まずは前者を議論する。前節の二つの例をプレイヤーの目標を妨げないようにするという観点から再デザインする。
以下の図は、一つ目の実例の再デザインの例である。
この再デザインでは、「セーブ箇所は一つである」というデシジョンを「セーブ箇所は二つである」というデシジョンに変更した。これにより、「エンディングコンプリート」という目標の達成が容易になる。
同じように以下の図は、二つ目の実例の再デザインの例である。
この再デザインでは、プレイヤーの提案を採用し「倉庫がある」というデシジョンを追加した。また「最大格納数は500個」というデシジョンも追加した。これらのデシジョンにより、「武器や防具のコレクト」という目標の達成が容易になる。
以上のことから、
ゲームデザイン上のデシジョンが、プレイヤーの目標の設定と目標の達成の困難さから発生する不満を決める
ことを示した。
次に、このようなデシジョンを行う上で以下の二つがどのように影響するのかを考える。
(1) プレイヤー依存の目標設定
(2) プレイヤーとデザイナーの目標設定の違い
(1)は、あるゲームデザイン上のデシジョンから発生する目標は、プレイヤーによって異なることを意味している。
(2)は、デザイナーが各プレイヤーが設定するかもしれない目標の推測が容易ではないかもしれないことを意味してる。容易ではないのでは、(1)の結果から、発生する目標は多様であるかもしれないためである。
結論としては、プレイヤーの目標設定から発生する不満を少なくするために、
ゲームデザインのプロセスでは、
(A) 現状のゲームデザインからプレイヤーがどのような目標を設定し、
(B) その目標がいかに達成されるのかを考慮し、
(C) 達成の困難さに基づき、ゲームデザインを修正していく必要がある
といえる。このA~Cのサイクルを容易にするには、たとえば、あるデシジョンからどのような目標が設定されるのか、ということを収集し、再利用することが考えられる。
■ まとめ
この記事では、事例をもとに、ゲームでプレイヤーに関して以下が観察できることを示した。
(a) ゲームプレイヤーは、ゲームプレイ時に、プレイヤー自身によりゲームの目標を設定する
(b) ゲームプレイヤーは、自身が設定した目標の達成が困難であるとき、不満を持つ
この観察をもとに、以下を議論した。
ゲームデザインのプロセスでは、
(A) 現状のゲームデザインからプレイヤーがどのような目標を設定し、
(B) その目標がいかに達成されるのかを考慮し、
(C) 達成の困難さに基づき、ゲームデザインを修正していく必要がある
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更新履歴
2009/8/19: この記事の内容を修正して「ゲームデザインの理論」のドキュメントに「プレイヤーの不満とゲームデザインの構造」として追加しました。今後は、こちらのドキュメントを更新していきます。
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この記事では、以下を主張する。
ゲームデザインに対するプレイヤーの不満は、以下の場合に発生する。
(1) 個々のデシジョンから発生する場合
(2) デシジョン間の関係から発生する場合
このことは、以下を意味する。
ゲームデザインのプロセスにおいては、個々のデシジョンを行うだけでなく、デシジョン間の関係付け、つまり、ゲームデザインの構造化が必要となる
ゲームデザインのプロセス(活動)とは、ここでは、次のような側面に対する様々な決定(デシジョン)を行うことだする。
(1)ゲームのルールの側面: 「キャラクターのレベルは上がる」、「レベル制限は99」、「戦闘はターン制であり、敵と見方が交互に行動を行う」、など。
(1.1)ゲームバランスの側面: 「ある敵のHPは500」といった、パラメータの設定など。
(2)ゲームシステムの側面: 「セーブ数は、10件」など。
(2.1)ユーザインタフェースの側面: 「LボタンとRボタンでキャラクターの切り替えができる」など。
(2.2) システムの品質に関わる非機能要素の側面: たとえば、ロード時間に対する要求。3秒以内に戦闘画面を表示し、ユーザの入力を受け付けなければならない、など。
(3)ゲームの遊び方に関する側面: ゲーム中のBGMを自由に変更できるなど。
ゲームデザインとは、このプロセスの結果として決めたこと(デシジョン)の集合であるとする。
詳細は「ゲームデザインの理論」のドキュメントを参照。
ndsmk2さんのレビューを分析していると、シミュレーションRPGである『デビルサバイバー』には、次の不満があることが分かった。
セーブデータは一つ
この不満を挙げたレビューを詳しく調査してみると、不満となる理由は、いくつかあることが分かった。以下の図は、不満の理由を表している。
以下では、この図をもとに、考察する。その前に、この記事の定義によれば「セーブデータは一つ」というのは、「決めたこと(デシジョン)の一つ」であり、「ゲームデザインの一部」であるということに注意してほしい。
これら図からは、以下の考察ができる。
(1) ある一つのデシジョンから発生する不満: 「家族で共有できない」や「友達に貸せない」などは、「セーブデータは一つ」というデシジョンが存在すれば、直接的に発生する不満である。たとえば、以下の図に示すように、NDSのRPGである『ドラゴンクエスト9』(以下ドラクエ9)でも、「セーブデータは一つ」というデシジョンが行われた結果として 「家族で共有できない」や「友達に貸せない」といった不満が発生している。
(2) デシジョン間の関係から発生する不満: 「他のエンディングを見にくい」は、「セーブデータは一つ」というデシジョンだけでは発生しない不満である。つまり「マルチエンディングである」というデシジョンが存在しなければ発生しない不満である。
(2)の観点から見れば、最初の図は不適切であると言える。「マルチエンディングである」というデシジョンが図の要素として表されていないためである。以下の図に、改良前(図の上)と改良後(図の下)を示す。
改良後の図は、大きく二つの部分から構成されるとして表している。
・ある一つのデシジョンとそのデシジョンから発生する不満(図の右下):「セーブデータは一つ」というデシジョンとこのデシジョンから発生する不満
・デシジョン間の関係とその関係から発生する不満(図の左上):「セーブデータは一つ」と「マルチエンディングである」というデシジョンと、これらのデシジョンの関係から発生する不満
別の観点から言えば、この改良後の図は、これら二つの部分の合成の結果であるとも見なせる。
次に、二つ目の構成部分である「デシジョン間の関係とその関係から発生する不満」の図について少し考察する。いくつかの疑問があるかもしれないためである。一つ目は、
「セーブデータは一つ」に対する不満要素(「他のエンディングを見にくい」)関係付け(案1)であり、 「マルチエンディングである」と「セーブデータは一つ」という関係に対するの関係付け(案2)でないのは何故か?
理由は、以下のような不満の表現はあっても
マルチエンディングなのにセーブデータは一つ
以下のような不満の表現はなかったためである。
セーブデータは一つなのにマルチエンディング
つまり、誤ったデシジョンなのは「セーブデータは一つ」であって「マルチエンディングである」ではないということである。この関係を表すために、案1を採用した。
二つ目の疑問には、
「マルチエンディングである」と「セーブデータは一つ」の間の関係に方向性があるのはなぜか。
以下の図は考えられる選択肢を表している。
案3を採用しなかったのは、「マルチエンディングである」と「セーブデータは一つ」とが同等の関係にあるように感じさせるためである。
案1か案2のどちらが適切なのかを判断は難しい。案1は、「マルチエンディングである」は、「セーブデータは一つ」ということに依存しているという関係を、案2は、「セーブデータは一つ」ということは「マルチエンディングである」に影響を与えているという関係と見なせるかもしれない。
ここまでをまとめる。
ゲームデザインに対するプレイヤーの不満は、以下の場合に発生する。
(1) 個々のデシジョンから発生する場合
(2) デシジョン間の関係から発生する場合
ゲームデザインの目標の一つは、プレイヤーの不満をできる限り少なくすることであると考えられる。前節の考察に基づけは、不満の解消には、二つの場合がある。
(1) 個々のデシジョンから発生する不満の解消
(2) デシジョン間の関係から発生する不満の解消
このことからは、
ゲームデザインのプロセスにおいては、個々のデシジョンを行うだけでなく、デシジョン間の関係付け、つまり、ゲームデザインの構造化が必要となる
と言える。
以下の図は、「マルチエンディングである」と「セーブデータは一つ」というデシジョンが行われた後のステップを表している。
この記事では、以下を主張した。
ゲームデザインに対するプレイヤーの不満は、以下の場合に発生する。
(1) 個々のデシジョンから発生する場合
(2) デシジョン間の関係から発生する場合
このことは、以下を意味する。
ゲームデザインのプロセスにおいては、個々のデシジョンを行うだけでなく、デシジョン間の関係付け、つまり、ゲームデザインの構造化が必要となる
2009/8/19: この記事の内容を修正して「ゲームデザインの理論」のドキュメントに「プレイヤーの不満とゲームデザインの構造」として追加しました。今後は、こちらのドキュメントを更新していきます。
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この記事では、以下を主張する。
ゲームデザインに対するプレイヤーの不満は、以下の場合に発生する。
(1) 個々のデシジョンから発生する場合
(2) デシジョン間の関係から発生する場合
このことは、以下を意味する。
ゲームデザインのプロセスにおいては、個々のデシジョンを行うだけでなく、デシジョン間の関係付け、つまり、ゲームデザインの構造化が必要となる
ゲームデザインとは何か?
ゲームデザインのプロセス(活動)とは、ここでは、次のような側面に対する様々な決定(デシジョン)を行うことだする。
(1)ゲームのルールの側面: 「キャラクターのレベルは上がる」、「レベル制限は99」、「戦闘はターン制であり、敵と見方が交互に行動を行う」、など。
(1.1)ゲームバランスの側面: 「ある敵のHPは500」といった、パラメータの設定など。
(2)ゲームシステムの側面: 「セーブ数は、10件」など。
(2.1)ユーザインタフェースの側面: 「LボタンとRボタンでキャラクターの切り替えができる」など。
(2.2) システムの品質に関わる非機能要素の側面: たとえば、ロード時間に対する要求。3秒以内に戦闘画面を表示し、ユーザの入力を受け付けなければならない、など。
(3)ゲームの遊び方に関する側面: ゲーム中のBGMを自由に変更できるなど。
ゲームデザインとは、このプロセスの結果として決めたこと(デシジョン)の集合であるとする。
詳細は「ゲームデザインの理論」のドキュメントを参照。
プレイヤーの不満とゲームデザイン
ndsmk2さんのレビューを分析していると、シミュレーションRPGである『デビルサバイバー』には、次の不満があることが分かった。
セーブデータは一つ
この不満を挙げたレビューを詳しく調査してみると、不満となる理由は、いくつかあることが分かった。以下の図は、不満の理由を表している。
以下では、この図をもとに、考察する。その前に、この記事の定義によれば「セーブデータは一つ」というのは、「決めたこと(デシジョン)の一つ」であり、「ゲームデザインの一部」であるということに注意してほしい。
これら図からは、以下の考察ができる。
(1) ある一つのデシジョンから発生する不満: 「家族で共有できない」や「友達に貸せない」などは、「セーブデータは一つ」というデシジョンが存在すれば、直接的に発生する不満である。たとえば、以下の図に示すように、NDSのRPGである『ドラゴンクエスト9』(以下ドラクエ9)でも、「セーブデータは一つ」というデシジョンが行われた結果として 「家族で共有できない」や「友達に貸せない」といった不満が発生している。
(2) デシジョン間の関係から発生する不満: 「他のエンディングを見にくい」は、「セーブデータは一つ」というデシジョンだけでは発生しない不満である。つまり「マルチエンディングである」というデシジョンが存在しなければ発生しない不満である。
(2)の観点から見れば、最初の図は不適切であると言える。「マルチエンディングである」というデシジョンが図の要素として表されていないためである。以下の図に、改良前(図の上)と改良後(図の下)を示す。
改良後の図は、大きく二つの部分から構成されるとして表している。
・ある一つのデシジョンとそのデシジョンから発生する不満(図の右下):「セーブデータは一つ」というデシジョンとこのデシジョンから発生する不満
・デシジョン間の関係とその関係から発生する不満(図の左上):「セーブデータは一つ」と「マルチエンディングである」というデシジョンと、これらのデシジョンの関係から発生する不満
別の観点から言えば、この改良後の図は、これら二つの部分の合成の結果であるとも見なせる。
次に、二つ目の構成部分である「デシジョン間の関係とその関係から発生する不満」の図について少し考察する。いくつかの疑問があるかもしれないためである。一つ目は、
「セーブデータは一つ」に対する不満要素(「他のエンディングを見にくい」)関係付け(案1)であり、 「マルチエンディングである」と「セーブデータは一つ」という関係に対するの関係付け(案2)でないのは何故か?
理由は、以下のような不満の表現はあっても
マルチエンディングなのにセーブデータは一つ
以下のような不満の表現はなかったためである。
セーブデータは一つなのにマルチエンディング
つまり、誤ったデシジョンなのは「セーブデータは一つ」であって「マルチエンディングである」ではないということである。この関係を表すために、案1を採用した。
二つ目の疑問には、
「マルチエンディングである」と「セーブデータは一つ」の間の関係に方向性があるのはなぜか。
以下の図は考えられる選択肢を表している。
案3を採用しなかったのは、「マルチエンディングである」と「セーブデータは一つ」とが同等の関係にあるように感じさせるためである。
案1か案2のどちらが適切なのかを判断は難しい。案1は、「マルチエンディングである」は、「セーブデータは一つ」ということに依存しているという関係を、案2は、「セーブデータは一つ」ということは「マルチエンディングである」に影響を与えているという関係と見なせるかもしれない。
ここまでをまとめる。
ゲームデザインに対するプレイヤーの不満は、以下の場合に発生する。
(1) 個々のデシジョンから発生する場合
(2) デシジョン間の関係から発生する場合
構造化のプロセスとしてのゲームデザイン
ゲームデザインの目標の一つは、プレイヤーの不満をできる限り少なくすることであると考えられる。前節の考察に基づけは、不満の解消には、二つの場合がある。
(1) 個々のデシジョンから発生する不満の解消
(2) デシジョン間の関係から発生する不満の解消
このことからは、
ゲームデザインのプロセスにおいては、個々のデシジョンを行うだけでなく、デシジョン間の関係付け、つまり、ゲームデザインの構造化が必要となる
と言える。
以下の図は、「マルチエンディングである」と「セーブデータは一つ」というデシジョンが行われた後のステップを表している。
まとめ
この記事では、以下を主張した。
ゲームデザインに対するプレイヤーの不満は、以下の場合に発生する。
(1) 個々のデシジョンから発生する場合
(2) デシジョン間の関係から発生する場合
このことは、以下を意味する。
ゲームデザインのプロセスにおいては、個々のデシジョンを行うだけでなく、デシジョン間の関係付け、つまり、ゲームデザインの構造化が必要となる
2009/8/20: この記事の内容を修正して「ゲームデザインの理論」のドキュメントに「ゲームプレイ時におけるプレイヤーの好みの変化」として追加しました。今後は、こちらのドキュメントを更新していきます。
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この記事では、以下を主張する。
あるゲームに対するある ゲームプレイヤーの好みは、そのゲームのプレイを通じて、変化する
このことは、以下を意味する。
ゲームデザインのプロセスは、プレイヤー個人の好みの変化に対応できるデザインを生み出すプロセスである必要がある
ゲームデザインのプロセス(活動)とは、ここでは、次のような側面に対する様々な決定(デシジョン)を行うことだする。
(1)ゲームのルールの側面: キャラクターのレベルは上がる。レベル制限は99。戦闘はターン制であり、敵と見方が交互に行動を行う、など。
(1.1)ゲームバランスの側面: ある敵のHPは500といった、パラメータの設定など。
(2)ゲームシステムの側面: セーブ数は、10件など。
(2.1)ユーザインタフェースの側面: LボタンとRボタンでキャラクターの切り替えができるなど。
(2.2) システムの品質に関わる非機能要素の側面: たとえば、ロード時間に対する要求。3秒以内に戦闘画面を表示し、ユーザの入力を受け付けなければならない、など。
(3)ゲームの遊び方に関する側面: ゲーム中のBGMを自由に変更できるなど。
ゲームデザインとは、このプロセスの結果として決めたこと(デシジョン)の集合であるとする。
詳細は「ゲームデザインの理論」のドキュメントを参照。
PS2のRPGである『ペルソナ4』のレビューでは、以下の不満点があった。
中間くらいで戦闘ナビがいらないと思うようになった。分かってることを何度も言ってくるので、音楽を聴いていたほうがいい気がした。
この不満点は、全139件のレビューの内1件だけであったので、この不満に対処する優先順位は低いかもしれない。しかし、この不満の表現からは以下が分かる。
あるゲームに対する あるゲームプレイヤーの好みは、ゲームプレイを通じて、変化する
ゲームデザインの観点から、もっと一般的に言えば以下のように言える。
あるゲームプレイヤーに適したゲームデザインは、ゲームプレイヤーのプレイ経験を通じて変化する
下記の図は、プレイヤーのプレイ経験が変化することで、ゲームに対する満足度が「満足」の状態から「不満」に変化することを示している(ここでは簡単のためゲーム=ゲームデザインとしている)。
ここで重要なのは、
初めからゲームデザインが誤っていた
というわけでないということである。戦闘ナビの例でいえば、この機能は、このプレイヤーにとっては初めから不要に思われていたわけでなかったといえる。
下記の図は、このプレイヤーの視点から理想的な状況を表している。このプレイヤーにとっては、ナビが不要だとなったら、そうなることが望ましい。
ゲームデザイナーは、プレイヤーのこのような要求に対応する必要がある。しかしながら、このようなプレイヤーの経験の変化に対応するには、ゲームデザイン側であらかじめ対応できるようになっている必要がある。この例でいえば、「戦闘ナビはオン・オフできる」というデシジョンを行ったデザインである必要がある。
以上のことから、ゲームデザインのプロセスに対する以下の要件を設定できる。
(要件)ゲームデザインのプロセスは、プレイヤー個人の好みの変化に対応できるデザインを生み出すプロセスである必要がある
一つのアプローチは、例でも示したように、プレイヤー自身が自分の現状の好みに合わせてゲームを調整できる機能を導入することである。
この記事では、事例に基づき、以下を主張した。
あるゲームに対するある ゲームプレイヤーの好みは、そのゲームのプレイを通じて、変化する
この主張が適切であれば、ゲームデザインのプロセスは、以下の特徴を備えていなければならない。
ゲームデザインのプロセスは、プレイヤー個人の好みの変化に対応できるデザインを生み出すプロセスである必要がある
----
この記事では、以下を主張する。
あるゲームに対するある ゲームプレイヤーの好みは、そのゲームのプレイを通じて、変化する
このことは、以下を意味する。
ゲームデザインのプロセスは、プレイヤー個人の好みの変化に対応できるデザインを生み出すプロセスである必要がある
ゲームデザインとは何か?
ゲームデザインのプロセス(活動)とは、ここでは、次のような側面に対する様々な決定(デシジョン)を行うことだする。
(1)ゲームのルールの側面: キャラクターのレベルは上がる。レベル制限は99。戦闘はターン制であり、敵と見方が交互に行動を行う、など。
(1.1)ゲームバランスの側面: ある敵のHPは500といった、パラメータの設定など。
(2)ゲームシステムの側面: セーブ数は、10件など。
(2.1)ユーザインタフェースの側面: LボタンとRボタンでキャラクターの切り替えができるなど。
(2.2) システムの品質に関わる非機能要素の側面: たとえば、ロード時間に対する要求。3秒以内に戦闘画面を表示し、ユーザの入力を受け付けなければならない、など。
(3)ゲームの遊び方に関する側面: ゲーム中のBGMを自由に変更できるなど。
ゲームデザインとは、このプロセスの結果として決めたこと(デシジョン)の集合であるとする。
詳細は「ゲームデザインの理論」のドキュメントを参照。
ゲームプレイ時におけるゲームプレイヤーの好みの変化
PS2のRPGである『ペルソナ4』のレビューでは、以下の不満点があった。
中間くらいで戦闘ナビがいらないと思うようになった。分かってることを何度も言ってくるので、音楽を聴いていたほうがいい気がした。
この不満点は、全139件のレビューの内1件だけであったので、この不満に対処する優先順位は低いかもしれない。しかし、この不満の表現からは以下が分かる。
あるゲームに対する あるゲームプレイヤーの好みは、ゲームプレイを通じて、変化する
ゲームデザインの観点から、もっと一般的に言えば以下のように言える。
あるゲームプレイヤーに適したゲームデザインは、ゲームプレイヤーのプレイ経験を通じて変化する
下記の図は、プレイヤーのプレイ経験が変化することで、ゲームに対する満足度が「満足」の状態から「不満」に変化することを示している(ここでは簡単のためゲーム=ゲームデザインとしている)。
ここで重要なのは、
初めからゲームデザインが誤っていた
というわけでないということである。戦闘ナビの例でいえば、この機能は、このプレイヤーにとっては初めから不要に思われていたわけでなかったといえる。
下記の図は、このプレイヤーの視点から理想的な状況を表している。このプレイヤーにとっては、ナビが不要だとなったら、そうなることが望ましい。
ゲームデザイナーは、プレイヤーのこのような要求に対応する必要がある。しかしながら、このようなプレイヤーの経験の変化に対応するには、ゲームデザイン側であらかじめ対応できるようになっている必要がある。この例でいえば、「戦闘ナビはオン・オフできる」というデシジョンを行ったデザインである必要がある。
以上のことから、ゲームデザインのプロセスに対する以下の要件を設定できる。
(要件)ゲームデザインのプロセスは、プレイヤー個人の好みの変化に対応できるデザインを生み出すプロセスである必要がある
一つのアプローチは、例でも示したように、プレイヤー自身が自分の現状の好みに合わせてゲームを調整できる機能を導入することである。
まとめ
この記事では、事例に基づき、以下を主張した。
あるゲームに対するある ゲームプレイヤーの好みは、そのゲームのプレイを通じて、変化する
この主張が適切であれば、ゲームデザインのプロセスは、以下の特徴を備えていなければならない。
ゲームデザインのプロセスは、プレイヤー個人の好みの変化に対応できるデザインを生み出すプロセスである必要がある
更新履歴
2009/8/8: この記事の内容を大幅に修正して「ゲームデザインの理論」のドキュメントに「ゲームプレイヤーの尊重性」として追加しました。今後は、こちらのドキュメントを更新していきます。
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この記事では、以下を主張する。
ゲームプレイヤーは、ゲームデザインに対して完全に利己的に不満の解消を要求するわけではない。
ゲームプレイヤーはゲームプレイを通じて、自分に適さない点があるとき、不満を持つ。しかし、ある種のプレイヤーは、自分だけに適するような不満の解消をゲームデザインに対して要求するのではなく、他のプレイヤーの好みを考慮するような解消を受け入れる。
ゲームデザインのプロセス(活動)とは、ここでは、次のような側面に対する様々な決定(デシジョン)を行うことだする。
(1)ゲームのルールの側面: キャラクターのレベルは上がる。レベル制限は99。戦闘はターン制であり、敵と見方が交互に行動を行う、など。
(1.1)ゲームバランスの側面: ある敵のHPは500といった、パラメータの設定など。
(2)ゲームシステムの側面: セーブ数は、10件など。
(2.1)ユーザインタフェースの側面: LボタンとRボタンでキャラクターの切り替えができるなど。
(2.2) システムの品質に関わる非機能要素の側面: たとえば、ロード時間に対する要求。3秒以内に戦闘画面を表示し、ユーザの入力を受け付けなければならない、など。
(3)ゲームの遊び方に関する側面: ゲーム中のBGMを自由に変更できるなど。
ゲームデザインとは、このプロセスの結果として決めたこと(デシジョン)の集合であるとする。
詳細は「ゲームデザインの理論」のドキュメントを参照。
ndsmk2さんのところの『ドラクエ9』のレビューを分析していると、次のような不満があった。
メッセージスピードを変更できない
この不満は、136件のレビュー中8件あった。ここで興味深いのは、なぜ、
「メッセージスピードが遅い」あるいは「メッセージスピードが速い」というような、プレイヤー自身に適した不満の表現でないのか
ということである。実際、「メッセージスピードが遅い」という不満は2件あった。
この疑問に対して、以下の3つの解釈を考えた。
・(解釈1) 過去の体験からの予測: 今までのドラクエのシリーズ(全てかどうかは未検証)では、メッセージスピードを変更する機能は存在していた。しかし、今作では、存在していない。そのため、過去の体験のあるプレイヤーは「メッセージのスピードの度合いが自分に適していない」というレベルの不満はなく、「メッセージのスピードが適していなくてスピードを変更したいのに、その機能がなくなっている」というレベルでの不満の表現を行った。
・(解釈2) 実際はプレイヤー自身に適した不満の表現である: 実際に、メッセージスピードの変更が必要な理由がプレイヤーにあったのかもしれない。たとえば、メッセースピードは最初はプレイヤーに適していた。しかし、プレイヤーが慣れるにつれて、メッセージスピードがプレイヤーに適さなくなった。そのため、スピードの変更の必要性があった。
この記事で主張したいのは、3つ目の解釈である。
・(解釈3) プレイヤーは、完全に利己的に自身の不満の解消を要求するわけではない: 自分に適したメッセージスピードは他のプレイヤーには適していないかもしれない。しかし、メッセージスピードをプレイヤー毎にに適するように変更できれば、自分だけなく他のプレイヤーの不満も解消できる。
もちろん、レビューを書いたプレイヤーは、3つ目のようなことを思考して不満を表現したわけではないかもしれない。実際、著者自身もこの「メッセージスピードを変更できない」という不満を持ったが、3のような思考を行ったわけはなかった。著者自身は、どちらかというと1だったように思える。
しかしながら、3の解釈も適切である、というのは重要であるように思える。少なくとも、筆者自身は3の解釈に反論はなかった。
一般化して、考えてみよう。ここでは、「完全に利己的なプレイヤー」と、「利己的ではないプレイヤー」の二種類が存在するとする。
・完全に利己的なプレイヤー: 自分の好みに適した不満の表現を行うプレイヤー
・利己的ではないプレイヤー: 自分の好みだけでなく他人の好みにも適した不満の表現の解消を行うプレイヤー
まずは、以下の図に示すように、完全に利己的なプレイヤーAと完全に利己的なプレイヤーBがいる場合。また、デシジョン1で構成されるゲームデザイン1とデシジョン2で構成されるゲームデザイン2があり、AとBがこれらゲームデザインのゲームをプレイしたとする。
この図から分かるように、完全に利己的なプレイヤーが表現する不満のみを解消しようとした場合、プレイヤー間で好みの衝突があるため、どちらのプレイヤーも満足させることができない。
次に、プレイヤーAとBに加えて、利己的でないプレイヤーXがいるとする。このプレイヤーXは、ゲームデザイン1のゲームをプレイし、「メッセージスピードが遅いのに変更できない」という不満の表現を行うとする(ゲームデザイン2の場合でも同様の議論が可能)。
ここで、二つの不満の表現が出たため、ゲームデザイナーは、どちらかを選択することで、不満の解消を行うことができる。
・(選択肢1)完全に利己的なプレイヤーの不満を解消: これにより、プレイヤーAの不満が解消され、プレイヤーBは不満になり、プレイヤーXは、解釈2の理由で不満があったのでない限り、とりあえずは満足する。
・(選択肢2)利己的でないプレイヤーの不満を解消: プレイヤーA、B、Xの全てのプレイヤーの不満を解消することができる。
選択肢2の場合を以下の図に示している。ただし、「メッセージスピードは、プレイヤーA、B、Xに適する範囲で変更が可能」と仮定している。
ここで、プレイヤーの利己性の度合いは関係しないのではないか、と思われる方がいるかもしれない。つまり、あるデシジョン(例ではデシジョン1かデシジョン2)は、プレイヤー間で好みの衝突を引き起こすということから、衝突を解消するようなデシジョン(例ではデシジョン3)を行うだけではないのか、ということである。
プレイヤーの利己性を考慮するかどうかは、衝突を解消するようなデシジョンを行ってよいかどうかに関係する。つまり、
・衝突を解消するようなデシジョンを受け入れるプレイヤー
・衝突を解消するようなデシジョンを受け入れないプレイヤー
がいると考えられるためである。
衝突を解消するようなデシジョンは、プレイヤーに選択することを強いるということである。プレイヤー自身に、自身に適したデザインを選択する権利を与えるということである。問題は、プレイヤーによっては選択する行為自体に不満を持つかもしれない、ということである。
ここでは、「利己的でないプレイヤー」 という観点から、「衝突を解消するようなデシジョンを受け入れるプレイヤーがいる」ということを示したといえる。
この記事では、以下の主張を行った。
ゲームプレイヤーは、ゲームデザインに対して完全に利己的に不満の解消を要求するわけではない。
このことは、
プレイヤー間の好みの衝突を解消するようなデシジョンを受け入れるプレイヤーがいる
とも言える。
2009/8/8: この記事の内容を大幅に修正して「ゲームデザインの理論」のドキュメントに「ゲームプレイヤーの尊重性」として追加しました。今後は、こちらのドキュメントを更新していきます。
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この記事では、以下を主張する。
ゲームプレイヤーは、ゲームデザインに対して完全に利己的に不満の解消を要求するわけではない。
ゲームプレイヤーはゲームプレイを通じて、自分に適さない点があるとき、不満を持つ。しかし、ある種のプレイヤーは、自分だけに適するような不満の解消をゲームデザインに対して要求するのではなく、他のプレイヤーの好みを考慮するような解消を受け入れる。
ゲームデザインとは何か?
ゲームデザインのプロセス(活動)とは、ここでは、次のような側面に対する様々な決定(デシジョン)を行うことだする。
(1)ゲームのルールの側面: キャラクターのレベルは上がる。レベル制限は99。戦闘はターン制であり、敵と見方が交互に行動を行う、など。
(1.1)ゲームバランスの側面: ある敵のHPは500といった、パラメータの設定など。
(2)ゲームシステムの側面: セーブ数は、10件など。
(2.1)ユーザインタフェースの側面: LボタンとRボタンでキャラクターの切り替えができるなど。
(2.2) システムの品質に関わる非機能要素の側面: たとえば、ロード時間に対する要求。3秒以内に戦闘画面を表示し、ユーザの入力を受け付けなければならない、など。
(3)ゲームの遊び方に関する側面: ゲーム中のBGMを自由に変更できるなど。
ゲームデザインとは、このプロセスの結果として決めたこと(デシジョン)の集合であるとする。
詳細は「ゲームデザインの理論」のドキュメントを参照。
ゲームプレイヤーの利己性
ndsmk2さんのところの『ドラクエ9』のレビューを分析していると、次のような不満があった。
メッセージスピードを変更できない
この不満は、136件のレビュー中8件あった。ここで興味深いのは、なぜ、
「メッセージスピードが遅い」あるいは「メッセージスピードが速い」というような、プレイヤー自身に適した不満の表現でないのか
ということである。実際、「メッセージスピードが遅い」という不満は2件あった。
この疑問に対して、以下の3つの解釈を考えた。
・(解釈1) 過去の体験からの予測: 今までのドラクエのシリーズ(全てかどうかは未検証)では、メッセージスピードを変更する機能は存在していた。しかし、今作では、存在していない。そのため、過去の体験のあるプレイヤーは「メッセージのスピードの度合いが自分に適していない」というレベルの不満はなく、「メッセージのスピードが適していなくてスピードを変更したいのに、その機能がなくなっている」というレベルでの不満の表現を行った。
・(解釈2) 実際はプレイヤー自身に適した不満の表現である: 実際に、メッセージスピードの変更が必要な理由がプレイヤーにあったのかもしれない。たとえば、メッセースピードは最初はプレイヤーに適していた。しかし、プレイヤーが慣れるにつれて、メッセージスピードがプレイヤーに適さなくなった。そのため、スピードの変更の必要性があった。
この記事で主張したいのは、3つ目の解釈である。
・(解釈3) プレイヤーは、完全に利己的に自身の不満の解消を要求するわけではない: 自分に適したメッセージスピードは他のプレイヤーには適していないかもしれない。しかし、メッセージスピードをプレイヤー毎にに適するように変更できれば、自分だけなく他のプレイヤーの不満も解消できる。
もちろん、レビューを書いたプレイヤーは、3つ目のようなことを思考して不満を表現したわけではないかもしれない。実際、著者自身もこの「メッセージスピードを変更できない」という不満を持ったが、3のような思考を行ったわけはなかった。著者自身は、どちらかというと1だったように思える。
しかしながら、3の解釈も適切である、というのは重要であるように思える。少なくとも、筆者自身は3の解釈に反論はなかった。
ゲームデザインへのゲームプレイヤーの利己性の影響
一般化して、考えてみよう。ここでは、「完全に利己的なプレイヤー」と、「利己的ではないプレイヤー」の二種類が存在するとする。
・完全に利己的なプレイヤー: 自分の好みに適した不満の表現を行うプレイヤー
・利己的ではないプレイヤー: 自分の好みだけでなく他人の好みにも適した不満の表現の解消を行うプレイヤー
まずは、以下の図に示すように、完全に利己的なプレイヤーAと完全に利己的なプレイヤーBがいる場合。また、デシジョン1で構成されるゲームデザイン1とデシジョン2で構成されるゲームデザイン2があり、AとBがこれらゲームデザインのゲームをプレイしたとする。
この図から分かるように、完全に利己的なプレイヤーが表現する不満のみを解消しようとした場合、プレイヤー間で好みの衝突があるため、どちらのプレイヤーも満足させることができない。
次に、プレイヤーAとBに加えて、利己的でないプレイヤーXがいるとする。このプレイヤーXは、ゲームデザイン1のゲームをプレイし、「メッセージスピードが遅いのに変更できない」という不満の表現を行うとする(ゲームデザイン2の場合でも同様の議論が可能)。
ここで、二つの不満の表現が出たため、ゲームデザイナーは、どちらかを選択することで、不満の解消を行うことができる。
・(選択肢1)完全に利己的なプレイヤーの不満を解消: これにより、プレイヤーAの不満が解消され、プレイヤーBは不満になり、プレイヤーXは、解釈2の理由で不満があったのでない限り、とりあえずは満足する。
・(選択肢2)利己的でないプレイヤーの不満を解消: プレイヤーA、B、Xの全てのプレイヤーの不満を解消することができる。
選択肢2の場合を以下の図に示している。ただし、「メッセージスピードは、プレイヤーA、B、Xに適する範囲で変更が可能」と仮定している。
ここで、プレイヤーの利己性の度合いは関係しないのではないか、と思われる方がいるかもしれない。つまり、あるデシジョン(例ではデシジョン1かデシジョン2)は、プレイヤー間で好みの衝突を引き起こすということから、衝突を解消するようなデシジョン(例ではデシジョン3)を行うだけではないのか、ということである。
プレイヤーの利己性を考慮するかどうかは、衝突を解消するようなデシジョンを行ってよいかどうかに関係する。つまり、
・衝突を解消するようなデシジョンを受け入れるプレイヤー
・衝突を解消するようなデシジョンを受け入れないプレイヤー
がいると考えられるためである。
衝突を解消するようなデシジョンは、プレイヤーに選択することを強いるということである。プレイヤー自身に、自身に適したデザインを選択する権利を与えるということである。問題は、プレイヤーによっては選択する行為自体に不満を持つかもしれない、ということである。
ここでは、「利己的でないプレイヤー」 という観点から、「衝突を解消するようなデシジョンを受け入れるプレイヤーがいる」ということを示したといえる。
まとめ
この記事では、以下の主張を行った。
ゲームプレイヤーは、ゲームデザインに対して完全に利己的に不満の解消を要求するわけではない。
このことは、
プレイヤー間の好みの衝突を解消するようなデシジョンを受け入れるプレイヤーがいる
とも言える。
更新履歴
2009/7/24: この記事の内容を修正して「ゲームデザインの理論」のドキュメントに追加しました。今後は、こちらのドキュメントを更新していきます。
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この記事では、以下を主張する。
ゲームプレイヤーは、ゲームプレイを通じて不満があるとき、プレイヤー自身に適したゲームデザインを探索する。
このプレイヤーが自分に適したゲームデザインを探索するという見方は、 ゲームのデザインプロセスに以下の結果をもたらす。
あるプレイヤーに適したゲームは、段階的にデザインできる。
ゲームデザインのプロセス(活動)とは、ここでは、次のような側面に対する様々な決定(デシジョン)を行うことだする。
(1)ゲームのルールの側面: キャラクターのレベルは上がる。レベル制限は99。戦闘はターン制であり、敵と見方が交互に行動を行う、など。
(1.1)ゲームバランスの側面: ある敵のHPは500といった、パラメータの設定など。
(2)ゲームシステムの側面: セーブ数は、10件など。
(2.1)ユーザインタフェースの側面: LボタンとRボタンでキャラクターの切り替えができるなど。
(2.2) システムの品質に関わる非機能要素の側面: たとえば、ロード時間に対する要求。3秒以内に戦闘画面を表示し、ユーザの入力を受け付けなければならない、など。
(3)ゲームの遊び方に関する側面: ゲーム中のBGMを自由に変更できるなど。
ゲームデザインとは、このプロセスの結果として決めたこと(デシジョン)の集合であるとする。
詳細は「ゲームデザインの理論」のドキュメントを参照。
一年以上前から、ゲームレビューサイトに投稿されたレビューを読み、プレイヤーがどんな不満を持っているのかを分析している。発見の一つは、以下である。
ゲームプレイヤーは、ゲームプレイを通じて、不満があるとき、プレイヤー自身に適したゲームデザインを探索する。
ここで不満とは、以下であるとする。
プレイヤーの不満とは、 プレイヤーが実際にプレイして感じたこととプレイヤーが期待することとの間の不一致である。
不満の表現は、抽象的なものから具体的なものまで様々である。たとえば、NDSのRPGである『セブンスドラゴン』のレビューでは、次のような不満の表現があった。
・抽象的な不満の表現: はっきりとは言えないが、なぜかストレスが溜まっていく(メニュー画面とかの操作性が原因?)
・具体的な不満の表現: キーアイテムは処分不可能でありアイテム欄を圧迫するのに、預り所がない。
実際にプレイして感じたこととは、そのプレイヤーにとってのそのゲームの質あるいは機能的な事実である。質とは、たとえば、「ストレスがたまる」に対応する。機能的な事実とは、たとえば、「預り所がない」に対応する。
プレイヤーが期待することとは、実際にプレイして感じたこととの中で、プレイヤーが受け入れたくないことを解消する質や機能のことである。たとえば、「ストレスがたまらない」や「預り所がある」などである。
この節では、具体的な不満の表現が行われるプロセスには、
プレイヤーが自身に適したゲームデザインを探索するプロセス
が含まれることを議論する。
具体的な不満の表現として、たとえば、『セブンスドラゴン』のレビューでは、次のようなものがあった。
(1) ダッシュは、序盤のクエストをクリアすることの報酬としてできるようになるが、最初からダッシュできたほうがいい。
(2) 受注したクエストの確認がメニュー画面でできない。
(3) フロワロは踏むとダメージを受ける仕様(毒沼)だが、毒沼だけでなく幾つか種類を増やしてもよかった。たとえば、雑魚敵が強くなるなど。
これら不満の表現は、以下の二つの要素が明示的・暗黙的に含まれると考えられる(上記の表)。
・プレイヤー自身に適さない実際のゲームデザイン
・プレイヤー自身に適したゲームデザイン
ここで注目したいのは、これら二つの要素間の関係である。この記事では、
プレイヤー自身に適さない実際のゲームデザインからプレイヤー自身に適したゲームデザインへの探索
として見なせると考える。
以下の図は、探索のプロセスは「プレイヤーによる決定の拒否」と「プレイヤーによる決定」により行われることを示している。
「探索」と呼ぶのは、迷路を探索することに似ている部分があるためである。たとえば、分かれ道がAとBの二つあり、Aを選択した(デザイナーによる決定に対応)とする。Aの道を進んでいくと、行き止まりである。そこでこの道を引き返す(プレイヤーによる決定の拒否)。次にBを選択する(プレイヤーによる決定)。
この記事では、以下を主張した。
ゲームプレイヤーは、ゲームプレイを通じて不満があるとき、プレイヤー自身に適したゲームデザインを探索する。
プレイヤーが自分に適したゲームデザインを探索するという見方は、 ゲームのデザインプロセスに以下の結果をもたらす。
あるプレイヤーに適したゲームは、段階的にデザインできる。
ただし、次の課題がある。
(a) プレイヤー自身の探索の失敗: プレイヤーが想像したデザインは、実際にはプレイヤーに適し ていないかもしれない。ゲームデザインは、実際にゲームとして実現されプレイされるまで適切な評価ができない可能性がある。そのため、プレイヤーが自分が 探索したデザイン評価できるように、デザインを素早くゲームとして実現できる必要がある。
(b) プレイヤー間の好みの衝突: プレイヤーAに適したデザインは、プレイヤーBには適していないかもしれない。そのため、好みの衝突を解消するようなゲームデザインを行う必要がある。
2009/7/24: この記事の内容を修正して「ゲームデザインの理論」のドキュメントに追加しました。今後は、こちらのドキュメントを更新していきます。
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この記事では、以下を主張する。
ゲームプレイヤーは、ゲームプレイを通じて不満があるとき、プレイヤー自身に適したゲームデザインを探索する。
このプレイヤーが自分に適したゲームデザインを探索するという見方は、 ゲームのデザインプロセスに以下の結果をもたらす。
あるプレイヤーに適したゲームは、段階的にデザインできる。
ゲームデザインとは何か?
ゲームデザインのプロセス(活動)とは、ここでは、次のような側面に対する様々な決定(デシジョン)を行うことだする。
(1)ゲームのルールの側面: キャラクターのレベルは上がる。レベル制限は99。戦闘はターン制であり、敵と見方が交互に行動を行う、など。
(1.1)ゲームバランスの側面: ある敵のHPは500といった、パラメータの設定など。
(2)ゲームシステムの側面: セーブ数は、10件など。
(2.1)ユーザインタフェースの側面: LボタンとRボタンでキャラクターの切り替えができるなど。
(2.2) システムの品質に関わる非機能要素の側面: たとえば、ロード時間に対する要求。3秒以内に戦闘画面を表示し、ユーザの入力を受け付けなければならない、など。
(3)ゲームの遊び方に関する側面: ゲーム中のBGMを自由に変更できるなど。
ゲームデザインとは、このプロセスの結果として決めたこと(デシジョン)の集合であるとする。
詳細は「ゲームデザインの理論」のドキュメントを参照。
ゲームプレイヤーのゲームデザインに対する不満
一年以上前から、ゲームレビューサイトに投稿されたレビューを読み、プレイヤーがどんな不満を持っているのかを分析している。発見の一つは、以下である。
ゲームプレイヤーは、ゲームプレイを通じて、不満があるとき、プレイヤー自身に適したゲームデザインを探索する。
ここで不満とは、以下であるとする。
プレイヤーの不満とは、 プレイヤーが実際にプレイして感じたこととプレイヤーが期待することとの間の不一致である。
不満の表現は、抽象的なものから具体的なものまで様々である。たとえば、NDSのRPGである『セブンスドラゴン』のレビューでは、次のような不満の表現があった。
・抽象的な不満の表現: はっきりとは言えないが、なぜかストレスが溜まっていく(メニュー画面とかの操作性が原因?)
・具体的な不満の表現: キーアイテムは処分不可能でありアイテム欄を圧迫するのに、預り所がない。
実際にプレイして感じたこととは、そのプレイヤーにとってのそのゲームの質あるいは機能的な事実である。質とは、たとえば、「ストレスがたまる」に対応する。機能的な事実とは、たとえば、「預り所がない」に対応する。
プレイヤーが期待することとは、実際にプレイして感じたこととの中で、プレイヤーが受け入れたくないことを解消する質や機能のことである。たとえば、「ストレスがたまらない」や「預り所がある」などである。
ゲームプレイヤーのゲームデザインの探索
この節では、具体的な不満の表現が行われるプロセスには、
プレイヤーが自身に適したゲームデザインを探索するプロセス
が含まれることを議論する。
具体的な不満の表現として、たとえば、『セブンスドラゴン』のレビューでは、次のようなものがあった。
(1) ダッシュは、序盤のクエストをクリアすることの報酬としてできるようになるが、最初からダッシュできたほうがいい。
(2) 受注したクエストの確認がメニュー画面でできない。
(3) フロワロは踏むとダメージを受ける仕様(毒沼)だが、毒沼だけでなく幾つか種類を増やしてもよかった。たとえば、雑魚敵が強くなるなど。
これら不満の表現は、以下の二つの要素が明示的・暗黙的に含まれると考えられる(上記の表)。
・プレイヤー自身に適さない実際のゲームデザイン
・プレイヤー自身に適したゲームデザイン
ここで注目したいのは、これら二つの要素間の関係である。この記事では、
プレイヤー自身に適さない実際のゲームデザインからプレイヤー自身に適したゲームデザインへの探索
として見なせると考える。
以下の図は、探索のプロセスは「プレイヤーによる決定の拒否」と「プレイヤーによる決定」により行われることを示している。
「探索」と呼ぶのは、迷路を探索することに似ている部分があるためである。たとえば、分かれ道がAとBの二つあり、Aを選択した(デザイナーによる決定に対応)とする。Aの道を進んでいくと、行き止まりである。そこでこの道を引き返す(プレイヤーによる決定の拒否)。次にBを選択する(プレイヤーによる決定)。
まとめ:段階的なゲームデザインのプロセスと課題
この記事では、以下を主張した。
ゲームプレイヤーは、ゲームプレイを通じて不満があるとき、プレイヤー自身に適したゲームデザインを探索する。
プレイヤーが自分に適したゲームデザインを探索するという見方は、 ゲームのデザインプロセスに以下の結果をもたらす。
あるプレイヤーに適したゲームは、段階的にデザインできる。
ただし、次の課題がある。
(a) プレイヤー自身の探索の失敗: プレイヤーが想像したデザインは、実際にはプレイヤーに適し ていないかもしれない。ゲームデザインは、実際にゲームとして実現されプレイされるまで適切な評価ができない可能性がある。そのため、プレイヤーが自分が 探索したデザイン評価できるように、デザインを素早くゲームとして実現できる必要がある。
(b) プレイヤー間の好みの衝突: プレイヤーAに適したデザインは、プレイヤーBには適していないかもしれない。そのため、好みの衝突を解消するようなゲームデザインを行う必要がある。